こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
今回はスズメとサクラのお話です。スズメは日本人にとっていちばん身近な鳥なので、詳しい説明はいらないですね。でも、身近な割にはわからないことも多く、興味深い行動を見せてくれる魅力的な鳥なんです。
さて、日本人にとってサクラの開花は、とても気になる春の風物詩。毎年多くの方が、今か今かと心待ちにしていると思います。ちょうど今頃は、青森県の弘前あたりまで桜前線が到達している頃でしょうか。
サクラの開花を心待ちにしているのは鳥たちも同じです。3月は種子や木の実が底をつき、昆虫もまだ活発に動かないので、鳥の食べものがあまりない試練の時期。その辛い期間を終わらせるのがサクラの開花なんです。もちろん目当ては花の蜜。ヒヨドリやメジロといった甘党の鳥だけでなく、シジュウカラやコゲラといった普段は昆虫を食べる鳥も蜜を吸いに来るので、よっぽど魅力的な食べものなのでしょう。お米を食べることで有名なスズメも、サクラの花の蜜が大好物で蜜を吸いにサクラの木を訪れます。
普通、鳥が花の蜜を吸うときは、嘴を花の中に差し込んで奥にある蜜を舌先で舐めるように吸います。メジロやヒヨドリのような、蜜が重要な食べものになっている鳥は、舌先が筆のようになっており、より多くの蜜が含みやすくなる構造をしています。
ところがスズメの舌先は、残念ながらそんな構造になっていません。また、嘴が太くて狭い花の奥に差し込める形にもなっていません。これはスズメの主な食べものが草の種子だから。蜜はメインの食事ではないので体がそれに適応していないんですね。
でも、サクラの甘い蜜はなんとか食べたい魅力的なメニューです。そこでスズメは、ちょっと乱暴な方法でこの問題を解決しています。花ごとちぎって蜜のある根元の部分を噛みつぶして蜜を吸うのです。その姿が花のラッパをくわえているみたいなので、「花ラッパ」なんて呼ぶ人もいます。
なんとも強引な食べ方に思えますが、体の構造が蜜を吸うようにできていないので、致し方ないことなのかもしれません。そこまでしてスズメはサクラの蜜を吸いたいのでしょう。花をちぎっては蜜を吸い、なくなるとポイッと捨て、また次の花をちぎる。これを繰り返すので、その下の地面にはサクラの花が一輪そのままたくさん落ちています。逆にそんな花がたくさん落ちていたら、そこでスズメが蜜を吸っていたことがわかります。スズメの花ラッパが見たい方は、出会うきっかけになるでしょう。
じつはこれ、サクラにとっては困った行動なんです。花が鳥に蜜を提供するのは、鳥に花粉を運んでもらい、子孫を残すためです。要するに蜜は花粉の運搬費なんですね。ところがスズメのやり方だと、花粉が運んでもらえません。蜜を盗まれているようなものですから、この行動を生態学用語では「盗蜜行動」と言います。
これではサクラがかわいそうですが、でも大丈夫。代表的な品種のソメイヨシノは、一説では1本の木に約11万8000個もの花を咲かせますから、スズメがどんなに頑張っても食べ尽くされることはありません。また、全てのスズメが蜜を吸うわけではなく、特定の木にしかやってこない傾向があり、深刻な被害にはならないようです。それにソメイヨシノ同士では種子が発芽しないので、花をちぎっても子孫には影響がありません。ここはスズメのかわいらしさに免じて大目に見ていただければ、私も嬉しく思います。3月の辛い時期を乗り越えたご褒美として。
写真提供:柴田佳秀
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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