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初雀はつすずめ

旬のもの 2022.01.03

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こんにちは。僧侶でライターの小島です。
新しい年を迎えると、なんだか周りの景色も新鮮に感じられます。12月31日の景色と、1月1日の景色に大した違いはないはずなのに。

きっと景色を見ている私の心の方に変化があるのでしょう。昨日は許せなかったことが、今日は許せたり、昨日はなんとも思わなかった景色が、今日はとても美しいものに感じたり。人間の心はなんて勝手で都合の良いつくりをしているんだろうかと思いますが、ちょっとくらい身勝手な方がいろいろなものを素直に感じ取れるような気もします。

今回のテーマ「初雀」もそのひとつ。

元旦の雀のこと、あるいはそのさえずりのことを「初雀」と呼ぶのだそうです。寒さに、羽毛をふっくら膨らませて丸くなった雀。
いつも目にする身近な存在も、年が改まるだけでなんだか清々しくめずらしいものに見えてきます。

浄土真宗本願寺派の本山・本願寺(西本願寺)の書院には、「雀の間」とよばれる部屋があります。その名の通り、金地の襖には、美しい竹とかわいらしい雀の絵(竹雀図)が描かれており、円山応挙の門人であった円山応瑞の筆とも吉村孝敬の筆とも言われています。

ところで、この部屋にはちょっとした言い伝えがあります。この襖絵の雀、完成した当初は68羽描かれていたというのです。
しかし、現在数えてみると66羽。かつて書院を見学したとき、案内してくださった方は「絵の完成度があまりに高かったため、2羽の雀は襖から抜け出して飛んでいったのだろう」とおっしゃっていました。
「本当のところは、おそらく絵師を褒めるために生まれた伝説であろう」とも。この話にちなんで「雀の間」は「抜け雀の間」とも呼ばれています。

私は、こういう本気か冗談かわからないような伝え話がけっこう好きだなと思うのです。みなさんはいかがでしょうか。

本願寺の書院といえば、今年の干支である虎に出会える部屋もあります。お客さまを迎えるための玄関として用いられるこの部屋は「虎の間」とよばれ、板壁にはなんだかひょうきんな顔をした虎と豹が、竹林のなかで戯れている様子が描かれています。

渡辺了慶の作と伝わるこの「竹林群虎の図」にも興味深いエピソードが語り継がれています。
当時日本には虎がいなかったため、絵師は弟子に命じて、加藤清正が大陸から持ち帰ったという虎の毛皮を被らせ、その様子を見ながら描いたのだという話(そう言われてみると、描かれている虎は少しなで肩のような気もします)。また、虎と豹が並んで描かれているのは、実は豹をメスの虎と勘違いしたからだなんて話もあります。真偽のほどは分かりませんが、そんな伝え話を知ると、キョトンとした顔の虎(と、豹)たちをいつまでも眺めていたくなります。

そして私が個人的に一番好きなのが東狭屋の間です。
通路のように細長い空間なのですが、見上げると、格天井にはたくさんの書物(折本、冊子、色紙)が散らばっている様子が描かれています。この天井をよくよく眺めてみると、1匹の猫を見つけることができるはずです。これは、紙が貴重な時代、ネズミの被害から書物を守るためにという遊び心から描かれた猫で、どこから見ても目が合うことから八方睨みの猫と呼ばれます。なんてかわいいのでしょうか!

本願寺の書院は特定の期間内であれば見学することができます。僧侶の案内でゆっくり見学できるツアーが組まれることもあるので、探してみてください。今年も1月から見学できる機会があるのではないかなと思います。もし訪れたら、ぜひ雀の数をかぞえてみてください。

その際には気をつけて。冬の京都の寒さは格別です。ふっくら丸い、初雀のように、暖かくして御参拝ください。

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小島杏子

僧侶・ライター
広島県尾道市出身。冬の風景が好きだけど、寒いのは苦手なので、暖かい部屋のなかから寒そうな外を眺めていたい。好きなのは、アイスランド、ウイスキー、本と猫、海辺。

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