食養生では、食材が持つ温めたり冷ましたりする性質を『五性(ごせい)』と言います。温める力が強いものを熱性、弱いものを温性とし、冷ます力が強いものを寒性、そして弱いものを涼性としています。どちらにも偏りがないものを平性として、常食に向くものとしています。
中医学では体内のバランスを重視します。熱がこもっているか、冷えているのか、この寒熱のバランスを崩すと様々な不調が出やすくなると考えます。例えば、熱がこもっていると、のぼせや火照りのほか、肌は炎症を起こしやすく、咽がいたくなりやすく、出血しやすく、イライラしやすくなります。冷えがあると、手足やお腹、もしくは体全体が冷えやすく、むくみやすく、下痢しやすく、トイレが近いです。
体内の寒熱が偏る原因は、天候や気温、ウィルスなどの感染症、日々の食生活や生活習慣、慢性病、もともとの体質などが複合的に影響します。
一般的には、寒い地域や寒い日、人よりも冷えやすい人は、温熱性の食材を取るのがよく、逆に、暑い地域や暑い日、そして人よりも熱がこもりやすい人は、温熱性のものをすくなくし、寒涼性の食材を取るほうが良いとされています。
基本的には、体調、季節、環境に合わせて使い分けると良いでしょう。例えば、冬場寒い時期なら温める作用のある韮や生姜、羊肉、鮭などを積極的に摂るほうがよいでしょう。夏場はそれらを控えめにして、スイカやトマト、ナスやセロリなどを食べましょう。
ただし不調時は微調整が必要です。
例えば冷え性の人も、発熱時や、赤いニキビがある、咽に炎症があるなどのときは、中医学では“熱状態”として考えるため、症状が落ち着くまでは温熱性の食材を避けて、寒涼性のものを摂ると良いとされています。舌を見ると真っ赤でコケがほとんどなく、ひび割れている人は体の潤いが不足した陰虚という状態ですが、こういう方はキムチなど辛いものを常食するのはよくありません。少ない潤いが熱で消耗され、乾燥による症状が悪化します。
また、イライラが強い人も温熱性のもの、辛いものは控えるほうがよいでしょう。イライラも熱です。漫画で怒っている人が書かれるとき、頭から湯気が出ていますよね。すぐ火がつくとか、沸騰しやすいとかいいますが、怒りは熱なんです。なので、温熱性のものを避けて、寒涼性のものをとりましょう。おすすめはセロリやトマト。これらは寒涼性であることに加え、『平肝(へいかん)』といって、過剰な気の上昇を正常にして心を落ち着ける力があると薬膳ではされています。
五性は、産地や旬によって共通する性質を持つものもありますが、そればかりではありません。そして部位や形状による共通した性質もありません。葉だから根菜だからで決まるのではなく、食材一つ一つに違った性質があります。
五性は、長年の経験の蓄積によって、個々の食材がどういった作用を持つのかを検証した結果です。例えば梨は秋にとれますが涼性です。大根は根菜ですが涼性です。桃は夏が旬ですが温性です。唐辛子、生姜、韮(にら)など、これらは温熱性の食材で体に熱を与えます。羊肉や鹿肉なども温性です。逆にスイカやニガウリなどは寒涼性の食材で、余分な熱を取り去ってくれます。そしてカニは寒性、エビは温性です。
五性は、本によって書いてあることが違うこともあります。それはどの文献を参考にしているかで違うからです。いくつか文献を当たってみて自ら検証することが大切です。また、すべての食材を覚えておくのは僕らでも難しいので、いつも本を傍らに置いてわからないものはすぐ調べています。
また、寒涼性のものを加熱してもその状態は基本的には変わりません。なので、例えばスイカを焼いても涼性が温性、または熱性に変わることはありません。
冷たいものをとりたいけど、その冷やす性質が邪魔になるときは、同時に温性や熱性のものを一緒にとることで、ダメージを和らげられます。例えば、カニは寒性で冷やしますが、同時によく取られるお酢は温性で温めるので、寒性の負担を軽減してくれます。そばは微寒性と冷やす食材ですが、温性のネギや熱性の唐辛子を追加することによって負担が少なく食べられるでしょう。
夏場に辛いものを欲するのは、辛いものには、代謝を向上させる働きがあるので、溜まった湿気を汗として排出することが出来るからです。ただし食べすぎは熱がこもる事になるので、ご注意ください。夏場の熱対策には、しっかり冷まして潤いも補ってくれるスイカがよいでしょう。冷えやすい雨の日には、寒涼性のもの、例えばウリ類や海藻類、貝類などは控え、温熱性のものをとりましょう。アサリやしじみは寒性ですが、味噌が温性なので、アサリやしじみは味噌汁にして、温性の小ネギを添えればまず問題ないでしょう。
食材の寒熱を考慮し、季節の変化や体調管理に役立ててくださいね。
櫻井大典
国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。
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