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葛根湯の正しい使い方

旬のもの 2022.05.15

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最近の寒暖差のせいか、カゼをひいている方が増えております。かくいう私も、先日娘のカゼをもらっておりました。子どもは症状をうまく伝えられないので、適した漢方を選ぶにも難儀しますが、自分の症状は、ちゃんと確認することが出来るので、漢方をうまく選んで、回復を早めることが可能です。

カゼで漢方と言えば葛根湯を思い浮かべるかたが少なくないと思います。しかし、「葛根湯の正しい使い方」はご存知でしょうか。

「葛根湯はカゼの初期に使うもの」とおぼえていらっしゃる方も多いと思います。実はこれ、半分正解ですが、半分間違いなんです。カゼに使う漢方薬というのは十種類程度あり、症状や段階によって使い分ける必要があります。

カゼの初期といってもその症状は様々。悪寒を強く感じる人もいれば、悪寒は軽いけど、咽が痛くなる人、鼻水がたくさん出る人もいます。汗がじとっと出る方も全く出ない人もいますし、咳が顕著な場合もあります。

これら全てに葛根湯が使えるかというとそうではありません。漢方の素晴らしいところは、その人の症状に合わせてお薬が細かく別れているところ。それはカゼでも同じことです。

Twitterで検索してみるとカゼの初期で咽の痛みに葛根湯を使っている方がたくさんいらっしゃいます。ですが、残念ながら咽の痛みに葛根湯は不向きです。葛根湯には咽の炎症を鎮める効果が無いばかりか、場合によっては悪化させてしまいます。

前置きが長くなりましたが、正しい葛根湯の使い方をご説明させていただきます。

葛根湯を使うタイミングと症状は、極初期、ひきはじめの1日、長くて2日目までで、発熱や悪寒、肩から首にかけてのこわばり、そして汗をかいていない状態です。まずはこれを目安にします。その他、顔が赤い、おでこあたりの頭痛、目の痛み、鼻の乾燥、下痢や腹痛、吐き気などです。

ポイントは、背中上部から首にかけてのこわばりと、汗をかいていないこと、そして軽い寒気です。これがなければ本来葛根湯を使うべきではありません。

葛根湯は「冷えのカゼ」に使う処方です。発汗させることで体表にある「冷え」を散らす漢方薬なので、「悪寒または悪風」がないと使えません。「悪寒」とは、ぞくぞくとする寒気で、「悪風」は風に当たるのを嫌ったり、水を触るのを嫌がったりすることです。そして、発汗させて散らす処方なので、「汗をまだかいてないこと」というのもポイントです。さらに加えて、「肩から首にかけてのこわばり」も大事な条件です。これは肩こりのようなハリがあることです。ちなみに、体温計で測って熱があっても無くても、上記の症状を満たしていれば使えます。

寒気が顕著なカゼの初期で、汗をじとっとすでにかいている状態なら桂枝湯(けいしとう)という処方が適しています。もしくは葛根湯をつかって汗が出たなら、使用を中止し、まだ寒気が残っていたら桂枝湯に変更しましょう。

葛根湯

悪風、無汗、首筋から肩にかけてこわばりがあるカゼの極初期

では、のどが痛いカゼの初期には何をつかうべきでしょうか。

のどが痛いのは「熱のカゼ」です。熱のカゼが粘膜にくっついて炎症を起こしている状態です。急な発熱または身体が熱っぽい、のどが痛い、鼻水や痰が黄色く粘りがあるなどが見られるときです。見分けやすいポイントは、「喉が痛い、もしくは違和感がある」状態です。そして「かすかな悪寒が合っても喉が痛いときは熱のカゼ」も覚えておいてください。

喉の痛みなどは熱のカゼなので、熱のカゼに温めて発汗させる葛根湯を使うと悪化します。

この熱のカゼには、銀翹散(ぎんぎょうさん)という漢方を使います。名前は発売元によってちがいますが、「銀翹」という言葉があれば、基本的にどれも同じものです。

この話を書くとよく、「桔梗湯は?」と聞かれますが、桔梗湯は、確かに喉の痛みを軽減する漢方です。ただし、熱のカゼを散らす作用がありません。喉の痛みに桔梗湯は間違いではないですが、ちょっと弱いと覚えておいてくださいね。

銀翹散

熱感またはかすかな悪寒、発熱、頭痛、喉の痛み、無汗または汗ばむ、軽度の口渇。たまに目の充血や咳を伴うことも。

葛根湯はカゼの初期に使う発汗作用を伴った漢方で、長期連用には向いていません。葛根湯は、発汗を促すお薬なので、体内の潤いを消耗します。短期間ならよいですが、使い続けると疲労が増し、興奮が強まり眠れなくなったり、便秘になったりします。動悸が出る人もいますし、頭痛になる人もいます。悪寒、無汗、肩のこわばりが有るときだけに使うようにしてください。そして、発汗があれば使用を中止してください。その後も寒気がある場合は、桂枝湯(けいしとう)をつかってください。

また中医学ではカゼの予防に葛根湯を使うことはありません。葛根湯はあくまでも急性の冷えを散らすお薬です。予防には扶正(ふせい)といって、体の抵抗力を高める漢方を使います。補中益気湯や玉屏風散、人参湯や人参栄養湯、十全大補湯などからその人に合ったものを選びます。

もう一点、これも多い間違いですが、妊婦さんや授乳中のかたが、「漢方なら安全」という間違った認識で葛根湯を使うケース。

中医学には「三禁」といって、発汗、利尿、便通を促すことを妊娠中にはしてはいけないとしています。葛根湯は発汗を促す漢方です。なので、妊娠中に発汗を促す葛根湯を使うことは避けるほうがよいです。妊娠中でカゼの症状が見られたら、まずは、香蘇散(こうそさん)を使ってください。これはムカムカするカゼのときに使う胃腸のお薬がベースになっている風邪薬で、発汗を促しません。これなら安心です。寒気がある場合は桂枝湯をつかいましょう。

乳腺炎の予防にも葛根湯は向いていません。なぜなら葛根湯には麻黄という興奮剤が入っているため、授乳中は赤ちゃんが寝にくくなってしまったり、動悸がするようになったりする可能性があります。一回飲んでそのようになるとは限りませんが、望ましくない症状がでる可能性は避けておくほうが良いでしょう。

また出産後は体力の消耗、そして血(けつ)の消耗も見られるため、血の元になる体液を汗として発汗させるのは得策ではありません。乳腺炎の予防にはしっかり搾乳することと、油っこいものや甘い物をひかえることが何よりも大切です。そのへんはまた専門家に相談してください。

但し、授乳中で乳腺に張りがあり、悪寒があるというときは、短期間に葛根湯を使うこともあります。予防には使わないほうがよいでしょう。

カゼの漢方薬をうまく使い分ければ本来はそれ以上悪化することはないです。私も年に何度かカゼっぽくなりますが、すぐ適切な漢方を飲むことで重症化や長期化を防いでいます。皆様も、早め・適切な漢方薬対策をして、元気に過ごしてください。

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櫻井大典

国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。

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