静かな庭園に、竹筒が岩を打つ「カコーン」という音が鳴り響く。
チョロチョロと流れる水、先端が斜めにカットされた竹筒。
風流という言葉がぴったりなこの日本的しつらえを、「ししおどし」と言います。
ししおどしの「しし」は、鹿や猪を意味し、漢字では「鹿威し」と書きます。
「威し」とはなんだか怖いイメージですが、もともとは田畑を荒らす鹿やイノシシ、鳥などを威嚇するための装置として使われてきたことがはじまりでした。その仕掛けの総称を「ししおどし」と言い、「かかし」や「鳴子」などもししおどしの一種と言われています。

ししおどしは、「添水(そうず)」という仕掛けを用います。
竹筒に水を引き入れ、水がいっぱいになるとその重みで傾き、空っぽになると反動で竹筒がもとに戻る。その際に竹筒が石をたたき、音が鳴る仕掛けです。
最初は鳥獣を追い払うために使われていたししおどしでしたが、やがて岩を打つ音が風流だと人々の心に響くようになり、日本庭園に取り入れられるようになりました。

実際にししおどしが楽しめる場所としては、京都の一乗寺にある詩仙堂が有名です。
詩仙堂は、徳川家康の家臣であり文人、石川丈山が隠棲の地として建てた山荘で、日本で初めてししおどしが設置された場所とも言われています。
四季折々の花が咲く庭園は風情があり、とくに春のサツキと秋の紅葉が楽しめる季節には全国から観光客が訪れ、賑わいをみせています。
最初は動物を追い払うためにつくられたものが、日本庭園の装飾へと変わっていった、ししおどし。
私はこの変遷を知って、日本人の繊細で奥深い「美意識」に触れたようで誇らしい気持ちになりました。静かな場所に、少しだけ違和感のある音が鳴り響く。完璧ではないところに生まれた「ゆらぎ」に美を感じる精神性が、日本の「わびさび文化」を育ててきたのかなぁと思いました。

それは、松尾芭蕉が詠んだ代表的な俳句からも伝わってくるようです。
「岩」「蝉」「声」。この歌をはじめて知ったとき、言葉並びのきれいさと、使われている単語の力強さに驚きました。当時芭蕉がどんな気持ちでこの俳句を詠んだのかはわかりませんが、きっと、静けさのなかで見つけた「自分だけの世界」に心地よさを感じて出てきた言葉なのだろうと想像します。

そう考えると、昔も今も変わらずにししおどしの「カコーン」という音も、雨や鳥の声など自然の音も、身近なすべての音は自分だけの「静けさ」となって心をほぐしてくれるものなのかもしれませんね。

高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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