漬物男子 田中友規です。
梅雨ですね。湿度が高いと料理もやる気が出ません。
ベランダに生やしっぱなしの大葉やバジル、パクチーがぼうぼうで、
収穫しなきゃな、と思いつつ窓を伝う雫を眺めては時間が流れてゆきます。

ハーブは育ちすぎると葉が硬くなり、生食では食感が悪くなる。
なので使う時は上の方から柔らかそうなのを、ちょんと切り落としていただきます。
まとめてハーブを大量に使うこともあまりありませんから下のほうは大渋滞。
はやく食べてね、と訴えかけてくる葉を見てみぬフリでやり過ごしてきました。

毎年放っておいて、種を収穫するのも面白い。
バジルシードは、黒いごまのような雰囲気ですが、水に浸けておくと
周りにゼリーのような透明の膜を貼り、保水して種を守ります。
レモンシロップにつけておくとレモン味のゼリー膜になり、フルーツなどにかけて食べると
まわりはじゅんさいのようにつるり、食感はシャキシャキ、ちょっと手の込んだデザートになります。

パクチーは、英名コリアンダー。種はいわゆるカレースパイスの代表格コリアンダーシートです。
線香花火のような形で種がつき、茶色く枯れるまで放置してから一粒ずつ収穫します。
サラダオイルを熱して炒めると、柑橘系の香りがフワッとたちのぼり、カレーに爽やかさを加えてくれるかかせないスパイスになるのです。

大葉も放っておけばやがて穂紫蘇になりますし、日々成長し変化するベランダの住人たちもがんばっているのを邪魔するのは忍びない。
ほらね、放っておいてもそういう学びがあるのだから、だらけているわけではないのです。

ところで、「大葉」というのは青い紫蘇のことだけを指すそうな。
赤紫蘇は大葉ではなく、あくまで赤紫蘇。どうやら大葉というのは流通時の商品名だそう。
色が違うだけで食べ方も呼び名も違う、不思議な野菜です。

まとめてハーブを使い切る方法はないものか、とスマホを眺めているとふとグリーンカレーが目に止まりました。
みなさんもタイのグリーンカレーはご存じかと思いますが、あれ何でできているかを知ってる人は多くはないと思います。というのも、数年前に初めてグリーンカレーを作ろうと思い、某大手レシピサイトで調べてみると、作り方に1.グリーンカレーペーストを買ってきます。と書いてあるではありませんか!そんなレシピあるか!
仕方なくタイ語を翻訳しながら現地のレシピを読み解いて作り方を学んだことがあります。紐解いてみるとシンプルなもので、バジル、パクチー、レモングラスの芯、こぶみかんの葉、ニンニク、生姜、青唐辛子、をペーストにしたものであることがわかりました。

初めはミキサーでペーストにしてみたのですが、どうも葉が大きく残って雰囲気が出ません。
すぐにアジア食材屋さんでクロックという石臼を購入。重たい棒でずりずりとハーブ、にんにく、しょうがを擦りつぶしていくと、石の重さであっというまにペーストになっていきます。固い繊維もなんのその。これは便利。やはり現地の道具は文化の粋。
大量のハーブはどんどん小さくなっていき、濃縮された極濃の香り。あとはココナツミルクで伸ばして、塩と砂糖、ナンプラーで味付けし、好きな具材と煮込むだけでグリーンカレーの完成です。
もしハーブを使いきれないときは、グリーンカレーがおすすめです。
ここでふと思いついた。大葉もペーストにすればグリーンカレーになるのでは?

なぜならバジルはシソ科の植物。食材を同じ系譜で再構成するとまた新しい味に出会えるのが面白い。
たとえば脂っぽいステーキには胡椒が合う。それを脂×香辛料と考えると、わさびとアイスクリームも合う。そんな方程式を想像し、新しい味が生まれるのだ。
さっそくベランダ産のハーブをすべて収穫し石臼へ放りこみ、少し固くなった葉も茎も、全部まとめてずりずり。以前の香りの記憶とはまた少し違った、和風の香りが加わって新しいグリーンカレーが出来上がりました。熱が加わるとより強い香りが立って、グンと食欲が湧いてきます。

どんな味かは、ぜひ一度試してみてください。市販のペーストとは、まったく別物です。
大葉はそのままでも美味しい。でもちょっとだけ想像力を働かせてみると、新しい味に出会えることもある。梅雨の憂鬱を忘れさせてくれる、きょうの台所遊びはタイへの海外旅行となりました。

田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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