こんにちは。料理人の庄本彩美です。
お正月の三が日はどのように過ごされたでしょうか。正月疲れを起こさないよう、胃腸を労ってあげてください。今日は最も小さい柑橘類といわれる「金柑(きんかん)」についてのお話です。
京都で一人暮らしを始めた時、私は実家のありがたみを感じて日々過ごすことになるのだが、そのうちの一つが、田舎の豊かな自然についてだった。
畑に行けば野菜が手に入り、魚は父や近所の人が釣ってきてくれた。スーパーで薬味を見た時は「ネギも大葉も、庭に生える葉っぱじゃないのか?」と奇妙な気持ちになったのを覚えている。
数年前の1月、久しぶりに帰省した時のこと。実家にいても手持ち無沙汰だった私は、はんてんを羽織ってふらふらと庭へ散策に出た。
ロウバイや水仙が花を咲かせている。実家にいた頃は遊びに出てばかりだったので「こんな所にこんな素敵な木や花が植えてあったっけ?」と記憶を辿ったけれど思い出せない。
うろうろ歩いていると、小さな金柑の木を見つけた。寒々しい冬の庭に、こんな可愛らしいオレンジ色の実を見つけるとなんだかほっとする。


私は食べごろそうな実を数個もいで、家へ戻った。
縫い物をしていた祖母に「こっちにいた時は知らんかったけど、金柑って甘露煮にしたらええんじゃね。ネットでいろんな人が作ってるのを見たことがあるよ」と伝えると、
「金柑なら◯◯さんとこにようけ成っとるけぇ、貰って来ちゃろう」と言って外へ出ていき、程なくして袋を片手に帰ってきた。
袋の中を覗き込むと、そこには小さめの金柑がころころと入っていた。
皮が少し固そうで、丸いものもあれば、少し細長いものもある。ハサミで取ってきたのか、実と一緒に緑の葉もついていて、さっきまで木に成っていた様子が、ありありと想像できた。それは「売りもの」や「食べもの」ではない「生きている金柑」のように私には見えたのだった。

枝葉を取るのがもったいなくて、そのまま水で洗った。濡れた金柑はてかてかと気持ちよさそうに輝いている。
へたを取り、金柑の表面へ包丁で縦にスジを入れて、お湯で煮ていく。ぷくぷくと金柑から水泡がゆっくり出てくる。蒸気が立ち上がり、金柑の香りが台所中にひろがると、優しい気持ちになって、ゆっくりと息を吸い込んだ。

水を入れかえ、砂糖を加えて石油ストーブの上へ置くと、鍋裏の水がジュっと音を立てた。
私はストーブの前で暖まりながら、金柑が煮詰まっていくのをじっと見つめていた。
そういえば小学生の頃、登校前に祖母によく新聞紙にくるんだ庭の花束を持たされた。教室に飾るためのものだったが、地味な菊や無骨な紫陽花など田舎の庭にはよく生えているものが多かった。「もっとオシャレな花が良いいのに…… 」と、私は持っていくのが恥ずかしかった。
今となっては、道端に咲く花さえ持って帰りたくなるくらい、どんな花でもその美しさに惚れ惚れするくらいだが、あの頃はそこにあるのが当たり前すぎて、見ようともしていなかった。
そんな事を思い出している間に、コトコトと鳴る鍋の音に、はっと現実に戻された。
この金柑も、その良さや可愛らしさが分かるからこそ、今向き合って料理ができるのだろう。
鍋の中では、金柑の甘露煮が出来あがろうとしていた。

金柑の花言葉は「思い出」「感謝」だという。
金柑の香りに、私は育った環境や、自然の恵みのありがたさを思い出させてもらったのかもしれない。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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