こんにちは。俳人の森乃おとです。
クリスマスが近づき、街が明るい華やぎに包まれていくのを感じます。園芸店にはクリスマスフラワーと呼ばれるポインセチアやクリスマスローズの鉢植えが並び、ヒイラギの赤い実と鋭い刺のある葉、ヤドリギの白い実がついた小枝を飾ったリースも売られています。駅前の広場のモミの木や街路樹には電飾が巻かれ、夜を彩ります。

貧しい羊飼いの少女の涙がクリスマスローズに
クリスマスの12月25日は、古代ローマ暦で冬至の日に当たります。日照時間は一年でもっとも短くなり、人々を不安な気持ちにさせますが、翌日から再び日差しが回復していきます。火を燃やしたり、霊力のある常緑の草木を捧げたりして、太陽の復活を願う冬至祭りの儀式が、クリスマスの起源になったと考えられています。
花の乏しい冬の時期に咲く、姿がバラに似た花が珍重されたのは、ごく自然のことだったでしょう。
中世ヨーロッパでは、羊飼いの少女の伝説があります。少女はキリストの誕生を祝いに訪れましたが、あまりに貧しいために何も贈り物を用意できませんでした。悲しくて泣いていると、少女の涙が流れ落ちたところから、純白のクリスマスローズが咲き出てきました。少女はそれを摘んで、聖母マリアに捧げることができたということです。

学名のヘレボルスは「食べると死ぬ」という意
クリスマスローズは、キンポウゲ科ヘレボルス属(クリスマスローズ属)の常緑多年草で、バラ科ではありません。原産地は南ヨーロッパと西アジア。学名はHelleborus niger(ヘレボルス・ニゲル)。属名のHelleborusはギリシャ語で、「食べると死ぬ」という意味の合成語。種小名のnigerは「黒い」の意。黒い塊根を持つことに由来します。全草有毒ですが、昔から根には特に魔力があると信じられていました。
草丈は20㎝ほど。花期は12月~1月。花径は1.5㎝ほど。花色は白。5弁花に見えますが、花弁ではなく、萼片(がくへん)が変化したものです。本来の花弁は退化して、蜜腺になっています。

クリスマスローズは本来、ヘレボルス・ニゲルだけを指しますが、日本の園芸市場ではヘルボルス・オリエンタリス(ハルザキクリスマスローズあるいはレンテンローズとも)などの交配種も、広くクリスマスローズと呼んでいます。これらの花期は1月~4月。花の色も白、ピンク、緑、紫など多彩です。
かつては花色が濁っていることが特色でしたが、この20年ほどで品種改良が進み、艶やかな美しい花が増えています。

日本には明治時代初期に薬草として渡来
日本には明治時代初めに「黒黎蘆根(こくれいろこん)」という名前の薬草として輸入され、政府の試験場に植えられたのが最初です。長い間一般にはほとんど知られていませんでしたが、うつむいて咲く姿が茶会に飾る花にふさわしいとして、一部の玄人たちに好まれたそうです。

ヘレブリンなどの強い強心配糖体を含むため、腹痛や下痢を起こす一方で、強心剤、下剤、堕胎薬としても使われました。アジア遠征途上のアレキサンダー大王の死(紀元前323年)についても、クリスマスローズを使った毒殺ではないかとの説さえあるそうです。
歌人・鳥海昭子(とりのうみ・あきこ、1929-2005年)の少しメランコリックで、美しい短歌です。
クリスマスローズの花言葉は「追憶」と「私を忘れないで」。古代ヨーロッパの戦士が戦場に赴く時に、恋人にクリスマスローズの花を贈る習慣があったため生まれました。
また、この花が鎮静作用を持つと信じられていたため、「私の不安を和らげて」という花言葉もあります。

飴山實(1926-2000年)は農芸化学の学者にして俳人。先祖が蘭学医なら、薬用植物のクリスマスローズへの思い入れは、人一倍強かったのかもしれません。
聖母マリアに捧げられた可憐な花と、魔女が扱う危険な薬草という二つの顔を備えていることが、クリスマスローズの謎めいた魅力を深めています。
クリスマスローズ
学名Helleborus niger
キンポウゲ科ヘレボルス属の常緑多年草。5弁の花に見えるのは、萼片が変化したもの。強い毒性を持つ。標準和名はクリスマスローズ。別名に雪起し(ユキオコシ)、寒芍薬(カンシャクヤク)。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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