こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
昔から、日本の夏に活躍する携帯アイテムと言えば、団扇(うちわ)と並び人気を誇るのが扇子(せんす)です。
皆様もご存知の通り、あおいで風を送ることで「涼」を感じることができる、夏ならではの道具のひとつ。
もともとは「扇」という一文字で「おうぎ」と呼ぶものでした。

その作りは、複数の細長い竹や木でできた「骨」を束ねて、片方の端の一点を「要=かなめ」で固定したもの。
要の部分が壊れてしまうだけでも、扇の形が成り立たなくなってしまうことから、物事の特に重要なことを指す「肝心要」という言葉の語源にもなっています。
骨には多くの場合、紙や布などが貼られており、あおいだ時により多くの風を送ることができる仕組み。
使わないときは折りたたんでおき、使うときに右手の親指を使って展開するものが一般的ですが、左利きの場合は、逆の作りになっている専用のものがあります。

うちわの歴史は、紀元前の中国や古代エジプトで使われていた記録が残っていますが、折り畳み式のうちわとも言える扇子についてはその起源にいくつもの説があり、発祥の地を明言することが難しいようです。
扇子は夏だけに用いられるわけではなく、神道の儀礼や装束の一部として使われたり、日本舞踊などの芸能で用いられたりする道具としても長い歴史を持っています。
私も、女子神職の正式な装束における持物として、雪洞(ぼんぼり)と呼ばれる自分の扇を持つようになりました。
平安時代の文献や歴史書には、扇子について、あおぐための道具としてだけでなく、贈答品としての役割や、手紙のような形で和歌を書いて送るコミュニケーションツールとしての使い方もよく記されています。
扇子に特別な想いをしたためて、大切な人へ贈る文化などは、日本人ならではの奥ゆかしい気品と感性が生んだ独特の表現方法ですね。

また、時代が下るにつれて儀礼の道具としても重んじられるようになり、日常や冠婚葬祭における持ち物の一つとしても、大切に受け継がれてきました。
扇子を開いた形のことは「扇形(おうぎがた・せんけい)」と呼ばれ、この形状は「末広がり」に通ずるので縁起が良いものとされ、おめでたい席での引出物としても用いられることがあります。

そういえば昔、私の祖父が持っていた扇子は、風を送ってもらうとお香のよい香りがして、あおいでもらうたびに幸せな気持ちになっていたのを思い出します。
扇子香と呼ばれる香水などを扇子に吹きかけたり、お香の匂い袋とともにしまっておいたりすることで、扇子に好きな香りを移しておくこともできるので、香りを楽しむものとしても心を整えてくれるよい道具になりますね。
白檀などの香木を使って作られた高級な扇子は、あとから香りをつけなくても、あおぐだけで落ち着いた優しい香りが漂います。

昨今の猛暑には、扇子ひとつではなかなか太刀打ちできないところもありますが、その美しい形状や模様から感じる風情は、日本の夏の象徴としても私たちの心を癒してくれる気がします。
ひとくちに扇子と言っても、今の時代はその素材や形にも、さまざまな種類があります。
たとえば浴衣や着物を身につけたときなどに、そっと懐に忍ばせれば、夏を個性豊かに楽しむよいツールになるのではないでしょうか。
たったひとつでもいいので、ぜひ、自分らしいお気に入りの扇子を見つけてみてくださいね。

紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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