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冷奴ひややっこ

旬のもの 2023.08.11

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は冷奴(ひややっこ)についてのお話です。

「夏野菜を色々料理して、たくさん食べるぞ!」と意気込んだ夏のはじめ。今年はバテずに乗り切れそうだと余裕ぶっていたら、急に暑くなってしまった。ジリジリと太陽が照りつける日々が続いている。
途端に食欲が落ち、台所で火を使うのがつらい。外食で済ませてしまおうかなどと、料理への意欲が削がれそうになる。

そんな時は、「冷奴」に助けを求める。
豆腐を冷やして大きめの正方形に切り、ネギ・生姜・鰹節などの薬味と醤油で食べるお馴染みの料理。お手軽なごはんのお供として、お酒のアテとしても親しまれる。真っ白な豆腐は、見た目にも涼しげだ。薬味のおかげで箸も進みやすく、夏の食卓には欠かせない。

冷奴といえば、その名前が特徴的で面白い。冷たいことを表現する「ひやっこい」に由来するのかと思っていたが、他にも説があるようだ。

江戸時代、武家の奉公人の中で最も身分の低い「家っ子、奴(やっこ)」と呼ばれる人たちがいた。この人たちが着る着物の柄が四角柄だったたという。釘抜(くぎぬき)といわれる紋(もん)で、四角に切った豆腐がこの紋に似ていたことから、四角い豆腐を奴豆腐と読んだとされる説があるそうだ。奴豆腐のうち、冷やしたものを「冷や奴」、温めたものを「湯奴(ゆやっこ)」と呼んだという。

釘抜紋

そういえば、時代劇などで、人のことを親しみを込めて「やっこさん」と呼んでいるのを聞いたことがある。

ところで、あなたのお家では、冷奴は「木綿派」それとも「絹ごし派」どちらだろうか?
私の実家では両方出ていたが、木綿の方が多かった記憶がある。地元の木綿豆腐は少し小ぶりの立方体のものが多かった。四等分で丁度良い大きさの冷奴ができる。

畑にあるネギや大葉、茗荷などを母が刻んで乗せてくれた。父の好きなキムチを分けてもらって、中華風にすることも。地元の甘露醬油や、祖母の手作りポン酢、どっちをかけるかは、毎回直前まで悩む。豆腐からしみ出た水分で薄まるのが嫌で、多めにかけては母に怒られた。
やや粗い舌触りの木綿豆腐は、まるでざっくりとした性格かのよう。「気軽に食べてね」と言わんばかりの、日常の食卓に染み込んだ一品だった。

たまに出ていたのが「袋どうふ」と呼ばれる、ビニール袋に充填された豆腐だ。円柱状になっていて、その真ん中を包丁でスパッと切って、そのまま盛り付けて食べる。
木綿と違ってツルツルで光り輝く豆腐の表面にうっとりする。急いでお皿を手元に寄せると、丸い形が故にクルンと動き、皿からこぼれそうになって慌てるのも、懐かしい思い出だ。
絹ごしと似たなめらかな口当たりで、ついお上品に食べたくなる豆腐である。

写真提供:庄本彩美

しかし、京都ではどの形の豆腐も見かけない。こちらの豆腐は平べったく、ぱっと見、大きく見える。そして、京都のスーパーの豆腐コーナーは、種類も多く、心なしか地元より豪華に並べられているようにも思える。豆腐は精進料理や懐石などの、京都の食文化を支えてきたからだろうか。

京都に住んでからは、ソフト豆腐と呼ばれる豆腐を好んで買っている。木綿と絹ごしのいいとこ取りをしたような食感だ。
冷奴にも合うだけでなく、調理をすれば崩れにくくお出汁を染み込みやすいという、どちらにも使いやすい万能な豆腐である。

様々な種類や地域性があるが、どの豆腐でも、冷奴は楽しめる。
アレンジも和風だけでなく中華風や洋風など、無限大の組み合わせが美味しい。つい食欲が落ちてしまう夏に、寄り添ってくれる豆腐と、手を組まないわけにはいかない。
「やっこさん、残りの夏もよろしくお願いします。」
そう言いながら、豆腐を手に取る。今夜の食卓の一品にも、冷奴が並ぶのだ。

写真提供:庄本彩美
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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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