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ホウセンカ

旬のもの 2023.08.30

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

ホウセンカ(鳳仙花)といえば夏の花。子どもたちが通う保育園や幼稚園、学校などの花壇で、健康そうな太い茎に明るい鮮やかな紅い花をつけた姿を見かけると、とても懐かしい気持ちが湧きおこってきます。

花の名は伝説の霊鳥・鳳凰にちなむ

ホウセンカは、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草で、アジア南部のインドやマレー半島、中国が原産です。

「鳳仙花」の名前は、伝説の霊鳥・鳳凰(ホウオウ)が羽ばたいているような、華やかな花姿に由来します。その音読みがそのまま和名になりました。
室町時代の古典学者・一条兼良(いちじょう・かねよし/1402~1481年)が編纂した百科事典的な書『尺素往来(せきそおうらい)』にも紹介されているため、16世紀までには中国を経由して日本に渡来し、栽培もされていたようです。

草丈は30~60㎝ほど。花期は6~9月と長く、まっすぐ伸びた茎の葉腋(ようえき)から、左右に2~3個ずつ、短い柄で花を吊り下げます。花の大きさは2~4㎝。花弁と萼(がく)は同色で、紅色を基本としてピンクや白もあります。

花被片は複雑に組み合わさってラッパ状となり、その奥に細長い突出部=距(きょ)がついています。距の中には甘い蜜があり、ハチなどの送紛者(=ポリネーター)がもぐりこむと、背面に花粉がくっつきます。2枚ずつ合着した左右の花弁は、誘われた昆虫たちの良い足場となります。

ホウセンカとギリシャ神話

ホウセンカは、花が咲き終わると長さ2㎝ほどの紡錘型の実をつくります。中には10~20個の黒褐色の種子が入っています。実は熟してくるとわずかな刺激でも弾け、1m四方ぐらいにまで種子をまき散らします。

この「種がはじける」ことこそが、ホウセンカの最大の特徴ともいえるでしょう。
ホウセンカには、次のようなギリシャ神話の言い伝えもあります。

――昔むかし、神々の集うオリンポスの宮殿にて宴会が開かれた際、黄金のリンゴが1つなくなりました。疑われたのは、給仕をしていた女神の1人。弁明は聞き入れられず、宮殿から追放されてしまった女神は、悲嘆のあまりに力尽きて息絶えます。そして自らの屍(しかばね)をホウセンカの花に変身させます。そして、リンゴを隠していないことを証明するために、何度も何度も実を破裂させるのでした――。

ちなみにホウセンカの学名Impatiens balsam (インパチェンス・バルサム)の「Impatiens」は、ラテン語で「我慢できない、短気(impatient)」を意味します。英語名ではRose balsam(ローズ・バルサム)の他に「Jumping Betty(おてんばベティ)」「Touch-me-not(私に触れないで)」など。いずれも弾け飛ぶ種子からの連想です。

初恋がかなう「爪紅(つまくれない・つまべに)」

ホウセンカは「爪紅」という別名も持ちます。少女たちが爪を赤く染めて遊ぶのに、この花が使われたためです。

江戸時代の植物学者・貝原益軒(かいばら・えきけん/1630~1714年)が著した『大和本草』(1708年)には、ホウセンカの赤い花とカタバミの葉をすり潰して指先に塗るという、当時のマニキュアの方法が書かれています。そして少女たちの間では、爪に付いた紅色を初雪が降る頃まで保てれば、初恋がかなうと信じられていたそうです。

また、沖縄ではホウセンカは「てぃんさぐ」と呼ばれ、この花で爪を染めるのは、恋占いにとどまらず、「マジムン」(悪霊)除けの効果があると信じられていました。

夏やすみ すぎしこころや 鳳仙花――水原秋櫻子(みずはら・しゅうおうし/1892~1981年)

ホウセンカの花言葉は、「私に触れないで」「短気」。学名と同様、予告なしにすぐ実を破裂させることに由来します。

ホウセンカが学校の花壇に植えられ、理科の授業の教材とされるのも、そうした特徴のためでしょう。そして夏休みの宿題として、終業式の日にホウセンカの植木鉢を持ち帰ったことを思い出す方も、多いのではないでしょうか。

俳人の水原秋櫻子の句を詠むと、長いようで短かった甘美で切ない夏の思い出がまざまざとよみがえってきます。
積まれた宿題を前に、真っ白な「ホウセンカの観察日記」を茫然として広げ、悪戦苦闘して「日記」を一行一行ひねりだしていく夏休みの最後の日。
俳句の世界では、「鳳仙花」は秋の季語です。花のさかりが過ぎ、種子がはじけ飛ぶ夕焼け空の向こうには、もう次の季節が広がっています。

ホウセンカ(鳳仙花)

学名Impatiens balsamina 英名Rose balsam, Jumping Betty,Touch-me-not ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草。インドやマレー半島、中国原産で、草丈は30~60㎝ほど。花期は6~9月、熟した実は自ずからあるいは触れることで弾け、種が飛び散る。花弁を潰して爪を染めたことから、爪紅(つまくれない・つまべに)とも。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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