こんにちは。俳人の森乃おとです。
ケイトウ(鶏頭、鶏冠)は秋の気配を感じさせる花です。真紅の花穂が、雄鶏のトサカのように膨らむことから名づけられましたが、近年はビロード細工の篝火(かがりび)を思わせるような、カラフルで可愛らしい品種が登場し、季節の深まりを彩ります。
奈良時代の呼び名は「韓藍」(からあい)
ケイトウはヒユ科ケイトウ属の一年草植物。アジア・アフリカの熱帯地方が原産で、奈良時代に中国・朝鮮半島を経由して渡来しました。当時の呼び名は「韓藍」(からあい)。タデ科イヌタデ属の「アイ(藍)」と同様、葉が藍染めの染料として使われたためです。
奈良時代に編纂された万葉集には、この「韓藍」を詠んだ和歌が4首収録されています。

万葉歌人として名高い山部赤人(やまべの・あかひと)の作品で、歌意は
「私の家の庭にケイトウの種を蒔いて育てていた。枯れてしまったけれど、懲りないで、もう一度、種を蒔こうと思う」。
さらに、作者未詳ですが、「秋さらば 移しもせむと 我が蒔きし 韓藍の花を 誰(た)れか摘みけむ(秋になったら 移し替えようと楽しみにしていたのに 私が蒔いたケイトウの花を誰が摘んでしまったのか)」と憤る歌もあります。
どちらの歌でも、ケイトウの花は愛する女性を象徴し、失恋の心を詠んでいます。

燃え盛る雄鶏のトサカ
ケイトウの花期は7~11月と長く、花期になると茎の先端が鶏のトサカのように肥大し、赤く色づきます。その下の方の表面にびっしりと張り付いている小花が本当の花です。径は5㎜ほど。5枚の色づいた萼(がく)があるだけで、花弁はありません。
ケイトウは花穂の形によって、幾つかの系統に分けられます。最もポピュラーなのは、真紅の花穂が扇状に広がり、さらに頭頂部に脳を思わせるような深い溝が出来る「トサカケイトウ」。ケイトウの学名の「Celosia cristata」(セロシア・クリスタータ)」はギリシャ語で、「燃え盛る」「鶏冠」の意。英語名「Cock’s Comb(雄鶏のトサカ)」、中国語名「鶏冠花」も、トサカを思わせる形と色に由来しています。

トサカケイトウの頭頂部が、華やかな球状に改良されたのが、「クルメ(久留米)ケイトウ」。
花穂が長さ2~4㎝ほどのふさふさした羽毛状の円錐形になり、色もピンク、朱、白、黄とカラフルになったのが「ウモウ(羽毛)ケイトウ」。小さな花穂の先が槍のように尖っているのが「ヤリ(槍)ケイトウ」。どちらも草丈は10~30㎝ほどに小型化されています。
江戸時代になると、ケイトウが染色に使われることはなくなり、日本最古の農業書である『農業全書』1697年刊/宮崎安貞著)では「野菜の一種」に分類されます。「ゆがいて和え物、おひたしにすると味が良い」として、飢饉に備えて栽培するよう勧めています。
しかし、アフリカや他のアジアでは今でも盛んに花と葉が食べられているのに、日本ではなぜか、食材としてあまり普及しませんでした。

花言葉は「情熱」「おしゃれ」「勇敢」「色褪せぬ恋」
ケイトウの花言葉は「情熱」「おしゃれ」「勇敢」「色褪せぬ恋」。
ほかに「風変わり」「気取り」などもありますが、いずれも雄鶏のトサカのような個性的な姿に由来します。
「勇敢」は、次のような中国の伝説にちなみます。
昔、ある若者が美女と恋仲になりますが、実は彼女は毒ムカデの化身でした。うたた寝していた若者が激しい物音に目を覚ますと、可愛がっていた雄鶏が、彼を襲おうとした大ムカデと格闘していました。雄鶏は若者を守り通しましたが、ムカデの毒にやられて死んでしまいます。そして、勇敢な雄鶏を葬った場所から咲き出てきたのが、姿がよく似た「鶏冠花」でした――。

一方で「色褪せぬ恋」は、色持ちがよくドライフラワーなどにしても、鮮やかな色を保ち続けることから生まれました。
ケイトウを詠んだ俳句の中でも、おそらく最も有名な作品です。作者は「写生」を唱えて日本近代文学の革新に取り組んだ正岡子規(1867-1902年)。「十四五本」という表現にどういう意味があるのかと、いわゆる「鶏頭論争」と呼ばれる激しい論争を巻き起こしました。

この句からは、肺の病のため病床から起き上がることもできずに、「確か、14、5本あったはずだ」と、自宅の庭のケイトウに思いを馳せている子規の姿が浮かんできます。
真っ赤な炎のような「鶏頭」は、子規にとっては生命の象徴だったのでしょう。あるいは自身のもとで育った頼もしい弟子たちに、未来と希望を託したのかもしれません。
何気ない素朴な「写生句」でありながら、苦しい闘病生活の末、30代の若さで世を去る子規の、切ない思いが鮮烈に伝わってきます。
ケイトウ(鶏頭、鶏冠)
学名Celosia cristata
英語名Cock’s Comb
ヒユ科ケイトウ属の一年草で、アジア・アフリカの熱帯地方原産。古く日本に渡来。花期は夏から秋、茎の上方に鶏冠状または円錐状の赤・黄・ピンクなどの花穂を立てる。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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