こんにちは。俳人の森乃おとです。
暦の上では、もうすでに秋を迎えましたが、まだまだ暑さが残る日々が続いています。そんな中で、ぷっくりとした艶々した葉を繁茂させ、鮮やかな黄色い花を咲かせているスベリヒユ(滑り莧)と出合うと、力強く励まされるような気持ちとなります。
スベリヒユは「C4植物」の代表格
スベリヒユは、スベリヒユ科スベリヒユ属の一年草で、世界の温帯と熱帯に広く分布。北海道から沖縄までの日当たりの良い市街地や田畑、路傍などに自生しています。
とてもありふれた野草で、鋪石の隙間やアスファルトの割れ目などの過酷な場所でも、しっかりと根を張っています。
生命力が旺盛なのは、「C4回路」という高性能の光合成回路を持つためで、夜間でも自分の体内から二酸化炭素を放出して、光合成を行うことができます。サトウキビやトウモロコシも同様の回路を持ち、「C4植物」と呼ばれます。
「おいしい野草」としても知られる
スベリヒユは栄養価が高いだけでなく、何よりも「おいしい野草」として知られています。多肉質の柔らかい茎と、同じく肉質の小さな葉は、噛むと心地よい「ぬめり」があり、独特の酸味が食欲をそそります。
茹でても、油で炒めても、生で食べてもおいしく、西洋では今でも野菜として畑で栽培されています。日本でも、昔は全国で食べられていました。
スベリヒユという和名の由来は、茎や葉が多肉質・無毛ですべすべしているからという説のほか、噛むとぬめりがあるから、うっかり踏むと滑るから……などの説があります。また語尾の「ヒユ(莧)」は、茎に赤味があり、葉と共に食べられるところが、ホウレンソウやケイトウなど「ヒユ科」の植物に似ているからとされています。
漢字名は「馬歯莧(ばしけん)」で、止血・解毒作用のある生薬の名前にもなっています。
スベリヒユは、地面から引き抜かれても長く緑色を保ちます。そのため夏の邪気を払うと信じられ、根ごと掘り起こして戸口に掛けられました。
古代から各地に伝えられた風習で、「イワイヅル」(祝い蔓)という別名の基になりました。掲句は、信濃出身の俳人・小林一茶が文化12(1815)年に詠んだもの。「スベリヒユは戸口に吊るされ、一生を終わっていく」と、おかしみの中にその運命を憐れんでいます。
また、スベリヒユには「ヒデリグサ(日照草)」という別名があります。由来は「雨が降らなくても元気に育つから」ともいわれます。そのほか、「旱」(ひでり)で飢饉が生じた時に、救荒植物として利用されてきたことも由来の一つかもしれません。
何しろ、野草愛好家の間では、「万一無人島に流されたら、まずスベリヒユを探せ」と言われているほどですから。
ちなみに山形県では「ヒョウ」と呼ばれ、郷土料理として親しまれています。
スベリヒユは春に発芽し、赤みを帯びた多肉質の太い茎を八方に這わせます。長さは15~30㎝。茎の両側に長さ1~2㎝ほどのへら形の多肉質の葉を互生させます。
花期は7~9月、枝先に径6~8㎜ほどの鮮やかな黄色い5弁花をつけます。朝開いて夕にはしぼんでしまう「一日花」ですが、次々に絶えることなく花を咲かせます。
宮城県の俳人・佐藤鬼房の句では、厳しい砂利道の環境でせっかく咲いたスベリヒユの花が、もう閉じてしまっている哀しさに注目しています。
花が咲き終わると紡錘形の実ができ、熟すと横に裂け、極小の黒い実がこぼれ出ます。
花言葉は「いつも元気」「無邪気」
江戸時代末に南米から観賞用に渡来したマツバボタン(松葉牡丹)は、スベリヒユと同属です。葉の形は針状で違いますが、多肉質ですべすべしているところは同じ。茎も多肉質で赤味があります。
スベリヒユ属の学名「Portulaca(ポーチュラカ)」は、ラテン語で「門」を意味する「ポルチュラ」に由来します。花が朝開いて夕に閉じる様子が、門を連想させたのでしょう。
近年人気の高い「ポーチュラカ」は、スベリヒユを原種とする園芸植物です。白や赤、黄、オレンジなど鮮やかな花が美しく「ハナスベリヒユ」とも呼ばれます。
スベリヒユの花言葉は「いつも元気」「無邪気」。暑さや乾燥に強く、強い日差しにも負けることなく、可憐な花をいっぱい咲かせることちなみます。
スベリヒユは夏バテを癒し免疫力アップなどに役立つ、豊かな栄養素を含んでいます。道端に生きるスベリヒユですが、古代より私たちの生活に寄り添い、力づけてくれる大切な植物なのです。
スベリヒユ(滑り莧)
学名Portulaca oleracea
英名Green purslane
スベリヒユ科スベリヒユ属の一年草で、世界の温帯、熱帯に広く分布。茎は地面を這い、多肉質の葉を持つ。花期は7~9月、鮮黄色の5弁の小花を開く。茎や葉は食用とする。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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