こんにちは。俳人の森乃おとです。
晩秋、街も野山も赤や黄色に彩られる頃になりました。日本の四季は、春は桜、秋は紅葉に象徴されます。今年は残暑が長かったせいなのか、全国的に紅葉・黄葉が遅い傾向にありますが、草木の命が燃え上がるような絢爛たる一年の終わりは迫っています。
モミジという言葉は、さまざまな落葉樹などの葉が秋に赤や黄色に変化する現象を指します。草の葉が赤く染まれば「草紅葉」、ツタ(蔦)の葉ならば「蔦紅葉」、サクラの葉ならば「桜紅葉」と呼ばれます。
同時に、モミジはムクロジ科カエデ属の落葉高木のグループを指す言葉でもあります。
日本には、カエデ属の木が26~28種ほど自生するとされます。その代表的な存在がイロハモミジで、単にモミジと言えば、この樹種のこと。
イロハモミジ(伊呂波紅葉)は、東アジア(日本、朝鮮半島南部、中国、台湾)に広く分布し、日本では、本州の福島県以西と四国、九州の低山地帯で多く見られます。美しい赤やオレンジに紅葉するので、庭木として愛され、多くの園芸種も作り出されました。
和名の由来は、掌状の葉が5~7つに裂けるため、その裂片の数を「いろはにほへと」と数えたことに由来します。後藤比奈夫の俳句は、モミジのはらはらと散る様子を詠み、風雅な情緒を伝えています,
果実は回転しながら風に乗り、遠くまで運ばれる
イロハモミジは、樹高10~15m。葉は対生で、長さ 3.5 ~6 cm、幅 3 ~7 cm。新緑シーズンの若葉も、優しく柔らかな印象があり、大変好まれます。花期は春で、新しい枝先に小さな散房花序を垂らし、花径 4 ~ 6mmの暗紫色の5弁花をつけます。
果実は2個が対に合わさり、左右に長さ1 ~ 2 cmの翼を伸ばし、まるでプロペラのような形になります。秋から冬にうっすらと赤味を帯びて熟すと、風に乗ってクルクルと回転しながら、遠くまで運ばれます。
別名は「イロハカエデ(伊呂波楓)」、タカオカエデ「高雄楓」など。高雄は京都の紅葉の名所の地名です。紅葉は、京都の西の龍田山に住む龍田姫という女神の仕業と考えられていたため、龍田草(タツタグサ)や色見草(イロミグサ)、また鹿が妻を求めて鳴く季節なので妻恋草(ツマゴイグサ)などのみやびな異名もあります。
モミジは「もみず」から、カエデは「蛙手」から
モミジとカエデは、植物学的には区別はありません。イロハモミジの和名は、一昔前はイロハカエデの方が一般的でした。
傾向としては、葉が深く切れ込み、裂片の幅が狭いものがモミジと呼ばれるようです。逆にカナダの国花(国樹)とされているサトウカエデや、北海道・東北に多くみられるイタヤカエデのように、切れ込みが浅く、裂片の幅が広いものがカエデと呼ばれます。
モミジは、草木の葉が赤く染まる様子を指す「もみずる」が語源。カエデは、葉の形がカエルの前脚の手のひらに似ているので、「蛙手(カエルデ)」と呼ばれ、それが縮まったとされています。ちなみにイロハモミジの学名は、ラテン語で「手の形をしたカエデ属」の意の“Acer palmatum”です。
サトウカエデやイタヤカエデは樹液の糖度が高く、煮詰めてメープルシロップを作ります。
イロハモミジの樹液も、シロップを作れるほどではありませんが、薄っすらと甘味が感じられるそうです。
イロハモミジの花言葉は、「美しい変化」と「大切な思い出」です。
紅葉が王朝時代の人々の心に、いかに重要な存在だったかは、鎌倉時代初期に歌人・藤原定家が編纂した『小倉百人一首』に、紅葉を詠んだ和歌が5首も採録されていることからも明らかです。
楽しかったにせよ、辛かったにせよ、生はいつしか終わります。せめてその間際に、精一杯の命を燃やして生を讃えたいという願いが、花言葉の「美しい変化」「大切な思い出」に込められているのでしょう。
猿丸太夫の歌の意は、「奥深い山で、紅葉を踏み分けながら、伴侶を求めて鳴く鹿の声を聞くとき、秋はひときわ物悲しく感じられる」――。
作者は三十六歌仙の一人で、生没年も生涯も不詳の謎の人物。秋の紅葉に切ない恋心と憂愁を重ね合わせた、有名な歌です。
サクラの花を見に行く「桜狩り」に対して、紅葉を観賞するのが「紅葉狩り」。いずれも、季節の終わりとはじまりを愛おしみ、思いを馳せる美しい行事です。なにも遠出をする必要はありません。散歩道などの身近な場所でも、心ゆくまで味わいたいと思います。
イロハモミジ(伊呂波紅葉)
学名:Acer palmatum 英名Japanese Maple ムクロジ科カエデ属の落葉高木。日本の福島県以西の本州、四国、九州、中国、朝鮮半島に自生。樹高10~15m。葉は5~7裂し、対生。10~12月に美しい赤やオレンジに変わる。別名はイロハカエデ。単にモミジ、カエデとも。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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