立春を過ぎたころ、
まだまだ寒い日が多く残る時季のことを「春浅し」といいます。
「春浅し」は、普段の会話では使わないような言葉ですが、俳句の季語として多く使われてきました。「早春」とほぼ同じ時季ですが、「春浅し」の方が柔らかな表現として親しまれてきたそうです。
たとえば、有名な歌ではこんな俳句があります。
“ 白き皿に 絵の具を 溶けば春浅し 夏目漱石 “
暗いところや真っ白なところから、広がる世界。
それは一気に変わるものではなく、じわじわと変わっていくもの。
「春浅し」に込められた繊細なこころが伝わってくるようです。
私は個人的に、冬から春に変わるこの季節が一番好きだなぁと思います。
寒くて身体は縮こまってしまうけれど、キリッとした冷たい空気や、静寂な雰囲気が感性を際立たせてくれるような、そんな気がするのです。
たとえば、歩いているとどこからか、ふわっと漂ってくる香りがあります。
「ここにいるよ」と言っているかのように、梅の花や蝋梅が咲いている。
金木犀ほどの強い香りではないけれど、空気を伝ってほんの微かに届くような、
しかし急いでいると見落としてしまうような...。
そんな微かなささやきに出会えると、なんだかうれしくなります。
冬木立から「チチチ...」と声が聞こえてくることもあります。
よく見てみると、うっすらと黄色みを帯びた小さな鳥がいる。ピョンピョンと枝をうつりながら、かわいらしい音色を聴かせてくれるのはメジロ。あの、ほのかに黄色みを帯びた丸っこい姿を見ると「もうすぐ春が来るんだなぁ」とホッとします。
山に入っていくと、地面に緑色の植物を見つけることができます。
小さいけれど、ようやく開いたと思わせてくれるようないのちのかたまり、ふきのとう。
出会うたびに季節のめぐりを感じます。
空気が澄んで、山や空、星や月のかたちもよく見えます。
吐く白い息が、だんだんと柔らかくなってきて、目の前の景色が少しずつ、少しずつ変わっていく。
だんだんと身につけるものが少なくなり、身体も心も軽くなっていく。
それが「春浅し」という季節なのかもしれませんね。
先日、散歩していて椿や水仙の花を見つけたので玄関に活けました。
前を通るご近所さんが「きれいだね」「いつもたのしませてくれてありがとう」と言ってくれるのがうれしくて続けているのですが、この時期はとくに花がポコポコと咲くので評判が良く、色んな人に声をかけられます。
あたたかな季節は、もうすぐそこまで来ています。
それまであとすこし、「春浅し」をたのしみましょうか。
高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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