3月、関西ではイカナゴの季節を迎えます。
春の稚魚が特においしいと好まれ、兵庫県の瀬戸内海沿岸地域では、この季節になると「イカナゴのくぎ煮」を炊く匂いが街に漂うほど。地元では春の風物詩として親しまれています。その料理名は、煮上がった姿がさびた古い釘が曲がったように見えることからついたのだとか。
イカナゴは成長すると15cmほどになる細長い魚で、漢字では「玉筋魚」と書きます。これは、春先に稚魚が水面近くを細長い玉のように群れてキラキラと泳ぐ姿に由来するそう。
関西では春に獲れる3〜5cmほどの稚魚を「新子(しんこ)」、成魚を「フルセ」「カマスゴ」などと呼びます。
播磨灘や大阪湾には、イカナゴの産卵に適した砂地が広がっているため、瀬戸内海東部では春にたくさんの稚魚が獲れるのです。
江戸時代の百科事典『和漢三才図会』には、背が青く、カマスに似た形をしていると説明され、俗にイカナゴ、カマスゴと呼んでいることが記されていますから、古くから日本人にとって身近な魚であったのでしょう。
関東では「コウナゴ」、東北では「メロウド」など、地方によっていろいろな名前を持つ魚でもあります。
「イカナゴのくぎ煮」は、新鮮なイカナゴの稚魚を醤油と砂糖、生姜などで甘辛く炊いた料理です。もともとは、瀬戸内沿岸地域の漁師の家庭などで作られていました。
現在のように広く一般に知られるようになったのは、1980年代以降。兵庫県明石市や神戸市の漁協の女性たちが料理教室を開くなどして普及に努め、ご当地の味として広まったといいます。
料理自体は古くからあったようで、大正時代の文献では「玉筋魚釘煎り(いかなごくぎいり)」の名で登場し、作り方が紹介されています。
そこには、イカナゴを鍋に入れ、醤油、砂糖、木の芽とともにとろ火にかけて煮上げ、最後に少量の味醂を加え、汁気がなくなるまで炊き、冷やしてから食べる旨が記されています。調理のポイントとして「是は釘のようにピンと煮るのです」とあり、現在の「くぎ煮」に通じる様子もうかがえます。
以前は大量に獲れたため、イカナゴ漁が解禁されると、地元の方は何キロもの新子を買い求めて、家庭で鍋いっぱいのくぎ煮を炊き、知人や親類に贈ったそうです。私は大阪在住ですが、春には神戸の知人からタッパーにぎっしり詰まったくぎ煮をいただいたものでした。
しかし、近年は不漁が続き、庶民の味だったイカナゴもすっかり高級魚に。今年はなんとたった1日でイカナゴ漁が終わってしまったそうです。地域の食文化も守るためにも、海の資源保護について真剣に考える必要があるのかもしれませんね。
清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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