こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「ひじき」についてのお話です。
乾物として出回ることの多いひじきの旬は、ちょうど今。「春ひじき」ともいうそうだ。
一見、素朴で地味に思われがちなひじきだが、老若男女に広く愛される食材である。実は、お惣菜での売れ行きはトップクラスらしい。

ひじきは歴史がとても古く、縄文時代から食べられてきたそうだ。日本の国土はカルシウムが少なく、水や農産物だけでは充分なカルシウムが補給できなかった。そのため海からの収穫物は、カルシウム不足を補うのにうってつけだったそう。内陸部では新鮮な魚介類を手に入れることは難しいため、保存食に適したひじきなどの海藻は重宝され、年中食べられてきたという。

そんな日本人の身体が欲してきたとも言えるひじき。あなたはどんな料理が好きだろうか?
私の地元、瀬戸内はひじきの産地だ。母がよく作ってくれたひじきの煮物も好みだったが、私にとってのひじきといえば、友人の「ひじきごはん」である。
私が高校生の時、母は畑の旬の野菜をおかずにして、いつもお弁当を持たせてくれた。母のお弁当は優しい味付けで、するりと食べられて好きだった。お弁当の量も内容も充分満足していたが、実は食べたくて食べたくてしょうがないものがあった。それが、友人の「ひじきごはん」だ。

昼休み、いつも一緒に昼食を食べる友人がいた。その子お弁当には、しょっちゅうひじきごはんが詰められていた。
これがとても美味しそうなのだ。太めのひじきがお米にざっくりと混ぜ込んである。黒々としたひじきが、白米の色を引き締めているかのようだ。私はどうしても、そのひじきごはんから目が離せなかった。人のごはんだから、こうも美味しそうにみえるのだろうか‥?
あまりにも羨ましそうにお弁当を見つめる私の視線に気がついた友人は、「食べる‥?」と私にお弁当を差し出してくれた。

有り難く頂戴すると、ひじきの礒の旨みがほわっと口の中に広がった。甘辛く味付けたひじきの味を、白米がちょうど良く整えてくれる。ひじきの食感がなんとも良く、噛めば噛むほど、口の中で味わい深い。
「なんて美味しいんだろう!おかずが進む白米も大好きだけど、混ぜごはんには、また別の魅力があるのよね〜!」などと、幸福感に満たされる。
とても幸せそうに食べている私をみて、これ以降、なんと友人は度々ひじきご飯を持ってきてくれて分けてくれた。そればかりか、多めに私の分まで詰めてくれていた。残りの高校生活、私は体が欲するがままに、ひじきごはんを食べ続けたのだ。
こうして友人のひじきごはんは、私の密かな思い出の味となったのである。

今も、料理の仕事でひじきを使うことも多い。
私の思い出のひじきは「長ひじき」という、茎の部分が太くて長く、歯応えのあるひじきで作られていた。他にも炒め物や煮物に向いているという。
仕事では、細くて柔らかく、口当たりの良い「芽ひじき」という先端の芽や柔らかい茎の部分を使うことが多い。演出したい料理によって使い分けるのも楽しい。
ひじき料理を作るとき、時折私は高校時代の「ひじきごはんを」思い出す。そして「誰かのひじき欲を満たせているだろうか」なんて、考えるのだ。

庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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