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江戸の初鰹

旬のもの 2024.05.11

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新緑の眩しさが美しい季節です。

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」という有名な俳句にも謳われた「初鰹」が出回るのが、ちょうど今の時季。

春から初夏にかけて、日本近海の太平洋を黒潮にのって南方から北上してくる鰹を「初鰹」と呼んで珍重したのが江戸の人々です。
鎌倉沖の海に鰹がやってくるのが、今のような青葉の頃でした。

江戸時代の浮世絵に登場する初鰹を持つ女性。背景には日本橋の賑わいが描かれています。(『江戸自慢三十六興 日本橋初鰹』国立国会図書館デジタルコレクションより)

江戸時代でも、特に明和から文化・文政の頃(1764〜1830)にかけて、初鰹は熱狂的に支持され、驚くほどの高値で取引されました。
初物は縁起物でもあり、初物を食べれば「寿命が延びる」「福を呼ぶ」といって、将軍や歌舞伎役者から一般庶民まで、みんなこぞって欲しがったのです。

句にも詠まれたホトトギスと初鰹が描かれた錦絵。(『十二ケ月の内 四月ほとゝきす・かつほ』国立国会図書館デジタルコレクションより)

初物をいち早く手に入れたい江戸の人々のために、漁師は西へ西へと漁場を移し、釣り上げた鰹を全速力で江戸へと運んだといいます。
その熱狂ぶりは凄まじく、鎌倉沖で釣れた鰹を生きたまま江戸に運び、それが日本橋の魚河岸に並ぶと、見物人が群がるほど。
当時の浮世絵にも初鰹がたくさん描かれています。

天秤棒を担いで、振り売りする鰹売り。(『四時交加』国立国会図書館デジタルコレクションより)

当時、初鰹1匹の値段が下級武士の1年分の給与と同じほどのこともあり、庶民には到底手の届くものではありませんでした。
たくさん出回るようになって、値が落ち着いてからようやく江戸の人々の口に入るものでした。
それでも高価な買い物にはほかならず、そんな背景から「女房を 質に入れても 初鰹」というよく知られた川柳も生まれたのかもしれません。

脂が少なくさっぱりとした初夏の鰹。

春から初夏の鰹は、エサを探して北上している最中なので、身が引き締まっていて脂が少なく、あっさりと上品な味わいが特徴です。
江戸では皮付きの刺身にして、辛子でさっぱりといただくのが定番でした。

香ばしく炙ってたたきにすると、鰹の風味が一段と良くなります。

鰹料理といえば、最近はたたきが有名ですね。

3枚におろした鰹を串に刺し、藁火で表面を軽く炙ってから冷やし、塩と酢をふりかけてから包丁の背でたたいて味を馴染ませたことから「たたき」と呼んだといわれます。
厚めに切って盛り付け、薬味にはニンニクや生姜、ネギなどをたっぷり使うと良いでしょう。

江戸時代から似た料理がありましたが、土佐の鰹のたたきが知られるようになり、現在のように全国で人気の郷土料理となっていきました。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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