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トラツグミ

旬のもの 2024.05.24

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

じつは私、NHKの大河ドラマが好きなんです。なぜなら、鳥がたくさん鳴くから。ある日の放送で何種類の鳥の声が聞こえるか数えてみたら、なんと18種も鳴いていました。さながらテレビでバードウォッチングをしているみたいで楽しいのです。

先日もいつものように大河ドラマを見ていたら、陰陽師の安倍晴明が登場するシーンで、今回紹介するトラツグミが鳴いていました。「陰陽師にトラツグミの声とは、なかなかやるなあ」と私はにやり。両者にはちょっとした関連があり、わかる人にはわかるという心憎い演出だと思うのです。そのわけは後述しますが、ドラマでの鳥の声は、音響効果さんが録音された音素材を季節や心理などを描写する演出として挿入しているので、その意図がわかるとドラマがいっそうおもしろくなるような気がします。

耳を澄ましてミミズの音を聞く

さて、そのトラツグミ。大きさが約30cmもあるけっこう大きな鳥です。北東シベリアから中国東北部、朝鮮半島、日本までの広い範囲で繁殖し、国内では北海道から九州まで分布します。北海道では夏鳥で、その他の地域では一年中みられる留鳥です。夏は丘陵から低い山の森で繁殖し、冬は平地の林で越冬する姿が見られます。主な食べものは、地面にいるミミズや昆虫で、秋から冬にかけては木の実も好んで食べます。

ミミズを捕らえた

トラツグミという名前は、体の色や模様が由来です。写真を見ていただければわかると思いますが、黄褐色の地色に黒いうろこ模様は正に虎柄。虎柄模様のツグミという意味のぴったりな命名だと思います。この虎柄模様は茂った藪の中はもちろん、草木があまりない地面にいる場合でも、木漏れ日にまぎれて抜群のカモフラージュ効果を生み出します。私も、この鳥がいるのにまったく気がつかないで近づいてしまい、突然飛び立って驚いた経験が何回もあります。それぐらいこの虎柄模様には効果があるのです。

トラツグミでいちばん注目すべき点は、やはり鳴き声でしょう。ちょうど今頃の5月から7月にかけて、「ヒョー、ヒー」と口笛に似た音や、時々「キーン」と聞こえる金属的な高い音を交えて繰り返し鳴きます。しかも鳴くのは夜で、静まりかえった森の中から聞こえてくる寂しげなこの声は、不気味さを感じさせるのには十分すぎる怖さがあります。どんな声か気になる方は、動画投稿サイトで「トラツグミ・声」で検索すると聞くことができます。

移動姿勢

この不気味なトラツグミの声は、昔から人々の関心を引いていたらしく、奈良時代には「ぬえ」や「ぬえとり」という鳥の声として知られており、古事記や万葉集に出てきます。また、平安時代には、ぬえの声は不吉な物として恐れられていて、この声が聞こえると災いが起きると信じられていたようです。大河ドラマの安倍晴明の場面でトラツグミが鳴いたのもこのためで、災いを解決する陰陽師にトラツグミの声は正にぴったりの演出といえるわけです。

ちなみに「ぬえ」といえば、平家物語で源頼政が宮中で退治した怪物の名前として有名ですが、じつはこの怪物、頭が猿、胴が狸、尾は蛇、手足は虎のようで、ぬえという鳥に似た声で鳴いたので、「ぬえ」と呼ばれるようになったのだそうです。ですから、トラツグミ=妖怪の正体と言えるかどうかは微妙なところだと思うのです。ただ、この当時、ぬえは鳥とわかっていてもトラツグミとまでは判明しておらず、それがわかったのは江戸時代になってからだそうです。

トラツグミの声は、現代でも騒動になることがあります。鳥の声とは思えない金属的な音質のためでしょうか、毎晩口笛を吹く不審者がいるとか、幽霊じゃないかとか、はたまたUFOじゃないかと騒ぎとなり、警察が出動する事件になったことがあります。

今も昔も人騒がせな鳥であるトラツグミですが、繁殖期の今頃は深い森の中にいるので姿を見るのはかなり難しいです。しかし、冬は平地の公園にも姿を現すため出会いのチャンスがあります。今回の写真もそんな街中の公園で冬に写したものです。ただし、虎模様のカモフラージュはなかなか手強いので、見つけるのはちょっと大変。その点は心して探してみてください。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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