こんにちは。科学ジャーナリストの柴田です。
11月に入ると、気温が一気に下降して秋も終盤という感じ。地域によっては、もう冬といってもいいところもあるでしょう。ところで「春告げ鳥」と呼ばれる鳥がいます。有名なところではウグイスがそうですね。では、冬の場合はどうでしょう。「冬告げ鳥」と呼ばれる鳥はいるのでしょうか?
残念ながら、冬の使者と呼ばれるハクチョウはいますが、一般的には「冬告げ鳥」と呼ばれる鳥はいません。でも、私は今回紹介するツグミこそ、「冬告げ鳥」だと思っています。
「キュッキュッキュッ」と空高くから聞こえるツグミの声。この声が聞こえ始めるのは、関東地方では10月末から11月上旬のことが多く、木枯らし1号のニュースが流れるちょうど同じ頃なので、まさに冬を知らせる「冬告げ鳥」だと思うのです。私はこのツグミの独特な声を聞くと、急に寒くなったような気がして背中が丸くなってしまいます。
ツグミは大きさ24cmほどの小鳥で、茶色と黒、クリーム色の複雑な模様をしています。雌雄ほぼ同じ色ですが、オスの方が色が濃く模様がはっきりしているといわれます。日本の代表的な冬鳥で、毎年10月初旬になると北海道や東北地方に姿を見せはじめ、その後、全国的に見られるようになるのは1ヶ月ほどかかります。どうしてそんなタイムラグがあるのか謎は解明されていませんが、もしかしたら渡来後はしばらく山にいて、平地におりてくるのに時間がかかるのかもしれません。
日本に滞在するのは、4月中旬くらいまでが普通です。ときには5月の大型連休くらいまでは姿を見ることがあり、早く繁殖地へ旅立たなくても大丈夫なのかと心配になります。繁殖地は、極東ロシアの森と考えられていますが、詳しいことはわかっていません。
ツグミといえば、胸を張った姿勢で地面にいるイメージがあります。でも、こんなふうに地面に降りるようになるのは、たいていが年を越した1月くらいから。それまでは木の上にいることが多いのです。では、なぜ、木の上にいるのでしょう。それはそのころのツグミの主な食べ物が果実だから。秋から初冬にかけての日本には、ズミやトウネズミモチなどの樹木の果実がたわわに実っています。果実はツグミの大好物。渡って来たら、まずは果実を求めて飛び回り、見つけては樹上でどんどん食べる。そんな暮らしぶりなので地面に降りてこないのです。
しかし、いくらたわわに実っていたとしても、連日のようにたくさんの鳥が食べに来ると、次第に在庫は少なくなっていきます。そして、1月にもなると食べる果実がほとんどありません。そうなるとツグミは地面に降り、果実から地中にいる昆虫などに食べものをシフトさせます。バードウォッチャーとしては、いつ頃、ツグミが地面に降りはじめるのかは、とても気になること。「もう、地上ツグミを見た?」なんて、ウォッチャー同士での会話ではよく出る話題なんです。
さて、地上に降りたツグミは、とてもおもしろい行動をします。お得意の胸を張ったポーズでしばらく立ち止まっているかと思えば、突然、全速力でダッシュ。そして静止。しばらくするとまたダッシュ。こんな具合にストップ アンド ゴーを繰り返す行動をひんぱんに見せます。その様子はまるで「ダルマさんが転んだ」をしているかのよう。もちろんこれは遊んでいるわけではなく、ツグミの採食方法なんです。
ツグミが狙うのは、土の中にいるコガネムシなどの幼虫やミミズです。ダルマさんが転んだの静止のとき、首をかしげるようなポーズをします。じつはこれ、ミミズなどが発する音を聞いているときの仕草なんだそうです。そのかすかな音を聞いて、目では見えない土の中にいるミミズを探し当てているんです。音が聞こえない場合は、またダッシュして移動。そして、また聞き耳を立てて獲物を探す。その動きが、まるでダルマさんが転んだをしているかのように人間からは見えるんですね。
ツグミは、全国の街中の公園でも普通にいる身近な鳥なので、どなたでもこのダルマさんが転んだを見ることができると思います。ツグミがこの採食法をしているときは夢中なのか、あまり警戒心がありません。そっと近づいて観察していると見事にミミズを捕まえる瞬間が見られると思います。なかなかおもしろい観察なので、この冬、地上に降りているツグミを見つけたら注意してみてはいかがでしょう。お勧めです。
写真提供:柴田佳秀
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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