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ハイビスカス

旬のもの 2024.07.05

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

7月に入り、いよいよ夏の季節の到来です。梅雨明けの夏至のころに吹く南南西の風を、沖縄では「夏至南風(カーチーベー)」と呼びます。南風が吹き渡る中、深く青く澄んだ天と海に映え、陽と対峙するように艶やかに咲き誇る緋色の大輪の花が、ハイビスカス(仏桑花・ぶっそうげ)です。

ハイビスカス=ブッソウゲは「中国のバラ」?

ハイビスカス(学名・英名:Hibiscus)は本来、アオイ科フヨウ属の植物の総称。このため、西洋ではムクゲやフヨウなどもハイビスカスと呼ばれます。
日本で一般的に「ハイビスカス」というと、ブッソウゲ(仏桑花)など数種の野生種から作出された園芸種を指します。

ハイビスカス=ブッソウゲは熱帯、亜熱帯に生育するアオイ科フヨウ属の常緑低木です。
学名の"Hibiscus rosa-sinensis(ヒビスクス・ロサ・シネンシス)"とは ” Rose of China(中国のバラ)"という意味。
ハイビスカス=ブッソウゲは交雑種であると推定されていますが、原産地については中国南部あるいはインド洋諸島、ハワイなど諸説あり、現在のところ不明です。

雄しべと雌しべが合体して1本の花柱に

ハイビスカスは樹高50㎝~3m。沖縄で街路樹などとして地植えされているものは5mを超えることも。
開花期は5~10月。花径は5~15㎝、大輪系では20㎝に達します。花色は赤、オレンジ、ピンク、白、黄、青、紫とさまざま。大きな5弁花が円形に重なり、5裂した萼(がく)で保護されています。

雄しべと雌しべは合体し、「花柱」と呼ばれる1本の長い突起になり、花の中心から垂直に突き出します。花柱の先端=雌しべの柱頭は5つに割れ、雄しべの葯(やく)は花柱の横から直接顔をのぞかせています。
花の形がどことなくパラボラアンテナを思わせるのは、5枚の花弁が放物線の皿になり、その中心から花柱が電波受信機のように突き出しているためです。

ハイビスカスは「神に捧げる花」

南国を象徴する花であるハイビスカスは、マレーシアでは国花、アメリカ・ハワイ州では州花です。ヒンズー教とも関わりが深く、ガネーシャ神に捧げる神聖な花とされています。
日本では、沖縄市の市花でもあるハイビスカス。「アカバナー(赤花)」と呼ばれて愛され、現地では一年中、いたるところで出合うことができます。亡くなった方の後生の幸福=冥福を祈る「後生花(ぐそうばな)」として墓前に供え、墓地に植える習慣もあるそうです。

花きよき 列島まもり 逝きたりと 嘆けば炎(も)ゆる 緋(ひ)の仏桑花――安永蕗子(やすなが・ふきこ/1920-2012)

作者は、宮中歌会始の召人(めしうど)も務めた熊本出身の女流歌人。1963年、沖縄摩文仁(まぶに)の丘に熊本県戦没者慰霊碑が建立された際、この歌が刻まれました。歌意は、
「花々が清らかに咲くこの国をまもって亡くなったのだと嘆き悲しめば、赤々と燃え立つように咲く、ブッソウゲの花よ」――。

石碑が建てられた摩文仁は、第二次世界大戦の沖縄戦で日本軍最後の司令部が置かれ、多くの犠牲者が出た地。緋色に燃えるハイビスカスの花は、亡き人々の魂を鎮め、後の世の幸せを約束してくれたのでしょうか。

ところで、ハイビスカスが本州に伝えられたのは、徳川幕府の公式史書である『徳川実紀(とくがわじっき)』によると、1609(慶長14)年です。薩摩藩主・島津家久が徳川家康に献上したのが渡来のはじまり。幕府の承認の下に、薩摩藩が琉球王国を武力で征服した年のことでした。

いつまでも 咲く仏桑華 いつも散り――小熊一人(おぐま・かずんど/1928-1988)

ハイビスカスの花言葉は「常に新しい美」「私はあなたを信じます」「勇敢」。
「常に新しい美」は、ハイビスカスが朝開き、夕には萎んでしまう一日花であり、一方で長い期間を次々に咲き続けることに由来します。

掲句の作者、小熊一人は沖縄気象台職員として3年間勤務した俳人。「夏至南風(カーチーベー)」のような沖縄独自の自然・暮らしを反映させた季語を収録した『沖縄歳時記』の著者として知られます。

一本のハイビスカスは永遠に咲いているようだが、一つ一つの花は毎日散っている――。
掲句は、個々の生命の儚さと、新しく生まれ命をつないでいくことへの祈りが込められているような、しみじみ味わい深い名句です。
「私はあなたを信じます」「勇敢」の花言葉には、次の世代への信頼と希望の思いも託されているのかもしれません。

ハイビスカス

学名:Hibiscus rosa-sinensis 
英名:Hibiscus
アオイ科フヨウ属の常緑低木。熱帯・亜熱帯に生育。原産地については中国南部あるいはインド洋諸島、ハワイなど諸説あり。樹高は50㎝~3m。花期は5月~10月。花径は5~20㎝。花色は赤、オレンジ、ピンク、紫、黄、青、白などさまざま。朝開いて夕に萎む一日花。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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