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荏胡麻えごま

旬のもの 2024.07.18

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今回ご紹介する荏胡麻は、私たち人間が体内では作ることができず、食事から摂取しないといけない必須脂肪酸のひとつα-リノレン酸を豊富に含んでいます。

そのため、近年は健康食材として注目され、エゴマ油がよく知られるようになりました。

しかし実は、日本では古くから山間部を中心に栽培されてきた作物でもあります。

荏胡麻は油だけでなく、種子や若葉もおいしく食べられます。

荏胡麻の原産地は東南アジアだと考えられていますが、日本では縄文時代の遺跡からもその痕跡が発見されており、かなり古い時代から食用にされてきたよう。

漢名は「荏(え)」。
和名の「荏胡麻」はゴマに似た小粒の種子が採れることに由来するとされます。「ゴマ」と名がついているものの、実際にはゴマとは異なる仲間の植物で、シソ科に属し、見た目も紫蘇にそっくり。ですが、香りや味わいは似ておらず、荏胡麻の葉には紫蘇のような爽やかな風味はありません。

韓国では定番料理の「エゴマの葉の醤油漬け」。

独特の香りがあるからか、日本では最近まで葉を野菜として食べる文化はほとんどなかったよう。

しかし、お隣の韓国では、荏胡麻の風味が好まれ、エゴマの葉のキムチや醤油漬け、焼き肉を包んで食べるなど、日常的にさまざまな料理に使われている人気の野菜です。日本でも韓国料理の人気の高まりとともに、スーパーでもエゴマの葉を見かけるようになりました。

日本では、種子を絞って油をとるのが一番の利用法で、主にエゴマの種子(正しくは果実)を食べてきました。油は食用のほか、灯明など灯りのための油や、防水のため雨傘や提灯などに塗りつけるなど、撥水剤のようにも使われていたそう。

岐阜県の飛騨地方では、荏胡麻のタレをつけた五平餅を作ります。

荏胡麻は冷涼な気候を好むため、東北地方や本州の山間部を中心に栽培されてきました。地域に根差し、長く食べ継がれてきた食材だからか、地方ごとに呼び名もさまざま。

東北地方では「じゅうねん」、長野県では「えぐさ」、岐阜県飛騨地方では「あぶらえ」などの別名を持っています。「じゅうねん」「じゅね」などと呼ぶのは、「荏胡麻を食べれば10年長生きできる」という言い伝えから。それほど荏胡麻が健康に良いと、先人は経験からわかっていたのでしょうね。

飛騨地方の「五平餅」は、つぶしたご飯を丸めて串にさし、煎った荏胡麻をすりつぶして醤油や砂糖などと混ぜたタレをたっぷり塗ってあります。囲炉裏からただよう芳ばしい香りがたまりません。

岩手県二戸の街角で売られている「じゅね餅」。

岩手県の二戸周辺では、「じゅね餅(串餅)」という伝統食が愛されています。

岩手の県北エリアは、山あいのため稲作には不向きで、冷害にも悩まされてきました。そのため、古くから雑穀の栽培が盛んで、小麦や蕎麦、粟、稗(ひえ)などとともに、荏胡麻も日常的に食卓に並ぶ食材の一つでした。

じゅね餅は、蕎麦粉や小麦粉で作った薄い餅を茹でて串にさし、煎ってすりつぶした荏胡麻と味噌と砂糖を混ぜ合わせた甘ダレを塗りつけて香ばしく焼いたもの。昔は家庭でもよく作られ、寒い時期に囲炉裏を囲んで食べたそう。

今では街角や道の駅の屋台でも売られており、じゅね味噌の焦げた香りに誘われてついつい手が伸びてしまいます。

そのほか、煎った荏胡麻はプチプチの食感を活かして色々な料理に使えますし、すった荏胡麻は和え物にも良いです。ゴマの代わりに、荏胡麻を食卓に取り入れてみませんか。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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