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ナナカマド

旬のもの 2024.11.18

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

11月も半ばを過ぎ、冬の訪れを、ひしひしと感じるようになりました。北海道や東北など北国では、ナナカマド(七竈)の紅葉も散りはじめ、赤く熟した実と美しさを競い合っていることでしょう。

「七回、竈(かまど)にくべても燃え尽きない」樹木

ナナカマドはバラ科ナナカマド属の落葉小高木ないし高木です。原産地は北海道から九州までの日本全土とサハリン、朝鮮半島などのアジア東北部で、冷温帯、亜高山帯の林地に自生します。

ナナカマドという愛らしい和名の由来については、日本の植物分類学の祖の牧野富太郎博士が「大変燃えにくいため、七回竈(かまど)にくべても燃え残る」という説を提示していますが、「材質が密なので、良質の炭をつくるには七回竈にくべる必要があるから」などの異説もあります。ただし実際にはナナカマドはよく燃え、良質の灰ができるそうです。

学名はラテン語でSorbus commixta(トリブス・コミクスタ)。「Sorbus」はビールの一種の名前で、実からお酒をつくったことに由来。種小名の「commixta」は「混合した」という意味です。

四季を通じてさまざまな色合いを楽しむことができる

樹高は3~12m。根元から数本の幹が並んで生え、各幹の太さは径15~30㎝に。葉は長さ15~25㎝の奇数羽状複葉で、3~9㎝の側小葉が4~8対、向かい合ってつきます。

花期は5~7月で、純白の5弁花が集まり、直径10~20㎝の房をつくります。果期は9~11月。光沢のある径5mmほどの果実がまとまって枝先に垂れ下がります。果実はやがて宝石のルビーのように赤く熟し、葉が落ちた後も長く樹上にとどまり、小鳥たちのエサとなります。
材は堅く緻密で、ろくろ細工や彫刻の材料となります。また、この木でつくった炭は特上品の備長炭として、ウナギの蒲焼を焼くのに重宝されます。

ナナカマドは、春には緑の葉の豊かな繁り、夏には可憐な白い花房、秋には美しい紅葉、冬には雪中に残る赤い果実など、四季を通じてさまざまな色合いを楽しむことができます。そのため近年は北国を中心に、市街地の街路樹や公園樹として植えられることが多くなりました。なかでも、北海道旭川市の見事な街路樹が知られています。

雷神トールを救ったナナカマドと花言葉

近縁種のセイヨウナナカマド(西洋七竈)の英語名は「ローワン(Rowan)」。火に強いことから「灰にならない樹」とされています。

北欧神話では、雷神トールが洪水で溺れそうになった際にナナカマドの木につかまって命を助けられたという伝説があります。このため、ナナカマドには魔力を祓う力があるとされ、船をつくる時には、この木の板を1枚入れておくと水難に遭わないと信じられていました。
またナナカマドの枝で十字架を作り、家畜小屋の戸口に掛けておくと、家畜を守ることができるとされていました。こうした言い伝えからナナカマドの花言葉の「私はあなたを見守る」「あなたを守る」が生まれました。

ちなみに生け花の世界では「ライデンボク(雷電木)」と呼ばれます。雷神と関係はなく、「赤い実のなる木」を意味する「赤実成り木(あかみなりき)」の「あ」がいつしか取れて「かみなりのき」になったといわれています。

なりたきは 乱世の女 ななかまど――仙田洋子(せんだ・ようこ/1962―)

俳人の仙田洋子氏の句には、乱世を生きる女性の激しさがあります。葉と果実を赤々と灯すナナカマドは、自らを燃やし尽くして世界を再生する炎のイメージと結び付くのでしょうか?
一方で、阿部みどり女(あべ・みどりじょ/1886―1980)「ななかまど 小鳥のための 実となりし」では、小さな生き物への優しい眼差しに胸打たれます。
ナナカマドは厳しい季節を生きる命にとって、頼もしくも温かい道しるべのように私たちを見守り、世界を明るく照らしてくれるのです。

ナナカマド(七竈)

学名 Sorbus commixta
英名 Japanese Rowan
バラ科ナナカマド属の落葉小高木~高木。日本、サハリン、朝鮮半島などアジア北東部原産。樹高3~12m。葉は長さ15~25cmの奇数羽状複葉。小葉は9~17枚。花期は5~7月。径6~8mmの純白の5弁花を房状につける。果期は9~11月。径5mmほどの果実が赤く熟し、葉も紅葉。材は堅く緻密で、ろくろ細工や彫刻の材料に使われる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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