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ヒレンジャク

旬のもの 2023.12.10

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

さあ、いよいよ冬の到来です。冬って、とてもワクワクします。なぜなら、越冬する鳥たちが平地にたくさん来るから。バードウォッチングがいちばん楽しい季節なんです。

越冬する鳥といえばハクチョウが有名ですが、小鳥にもロシアなどの国外で繁殖し、冬は日本で越冬する種がけっこういて、毎年、出会いが楽しみです。ただ、たくさん飛来する年もあれば、まったく来ない年もあって、その状況にバードウォッチャーは一喜一憂。「この冬は当たり年だ!」なんて喜びます。

さて今回、紹介するヒレンジャクも、そんな冬に姿を見せる渡り鳥です。大きさは18cmくらいでスズメよりも一回り大きいサイズ。ちょっとずんぐりした体型の小鳥です。頭には特徴的な冠羽があり、黒いアイラインの引き締まった顔はとても印象的。そして、ヒレンジャク(緋連雀)の名前の由来となった、尾羽の先の赤がとてもよく目立ち、体全体が滑らかな絹のような質感の羽毛に包まれています。日本有数のスタイリッシュな鳥なので、バードウォッチャーには非常に人気がある鳥の一つです。

ヒレンジャクは、とても大きな群れを作る鳥で、枝に鈴なりになってとまります。その様子が、まるで雀が連なっているように見えることから連雀(れんじゃく)という名前がつけられました。日本には、今回の主人公である尾羽の先が赤いヒレンジャクと、尾羽の先が黄色いキレンジャクの2種が越冬に来ます。ヒレンジャクは西日本に、キレンジャクは東日本で見られることが多いのですが、両種が混ざって群れをつくることも珍しくはありません。ちなみに、キレンジャクは北半球に広く分布する鳥ですが、ヒレンジャクはロシア沿海州で繁殖し、日本や中国東部で越冬する極東の鳥。日本ならではのレンジャク類なんです。

ヤドリギとヒレンジャク

ヒレンジャクの冬の主な食べものは、ナナカマドやクロガネモチなどいろいろな植物の果実です。その中でも特に大好きなのがヤドリギの実。ケヤキなどの大木の高枝についているヤドリギには、黄色い果実がたわわにみのり、ヒレンジャクはむさぼるように食べます。その食べ方といったら、びっくりするくらいの超高速。くわえたかと思うとあっというまに飲み込んでしまうため、写真でとらえるのはなかなか難しいのです。

ヤドリギの果実を食べる

果実をたらふく食べた鳥たちは飛びたって、水を飲みに近くにある池の岸に降り立ちます。驚くのは、その飲みっぷり。ものすごい勢いで水を口にすくっては上を向き、体に流し込んでいます。まるで人間が激辛食品を食べたときのような感じです。ヤドリギの実は辛くはないのですが、喉がかわくのか水をがぶ飲みするのです。

あわただしいヒレンジャクの食事風景を眺めていたら、枝にとまってじっとしている1羽に気がつきました。見ているとお尻から豆のような物が糸を引きながら次々と下へ伸びていきます。じつはこれ、ヤドリギを食べたときに出る糞です。丸のみにされた果実は、体の中で果肉だけが消化され、種が糞となって排出されます。種は、ネバネバとした特殊な成分に包まれているため、納豆のような感じに糸を引くのです。もしかしたら、このネバネバがあるので水をがぶ飲みするのかもしれません。

糞をするヒレンジャク

では、なぜヘンテコな糞なのか。これはヤドリギの作戦なんです。ヤドリギは、ケヤキなどの高い木の枝や幹に根を生やす半寄生植物です。こんな高い場所に種を蒔いてくれるのは空を飛べる鳥くらいしかいませんよね。そこでヤドリギは、ヒレンジャクなどの鳥に果実を食べさせ、種を運搬させるのです。ネバネバは接着剤みたいなもので、種を幹に貼りつける働きをします。貼りついた種は、そこから幹の中へと根を伸ばし成長する。なんという巧妙な作戦なんでしょう。

欧米では、クリスマスにはヤドリギを飾る風習があるといいます。真冬でも青々としているので、永遠の生命力を持つ象徴して飾るようになったという説も。そのヤドリギを育んでいるのはヒレンジャクやキレンジャクなどの鳥なのです。もし、ご近所の木にヤドリギがあったら、これからの季節にヒレンジャクに出会えるかもしれませんね。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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