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きりたんぽ

旬のもの 2024.11.20

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冷え込みがグッと厳しくなってくると、温かい鍋料理が恋しくなりますね。

秋田県の郷土料理「きりたんぽ」は、寒い季節の風物詩として広く知られています。

寒さがますますおいしくしてくれる鍋料理「きりたんぽ」(写真提供:秋田県)

きりたんぽは、鶏ガラを煮込んだ出汁と醤油や塩などの調味料を合わせたスープに、炊いたうるち米のご飯をすりつぶして作る「きりたんぽ」と、セリやゴボウ、マイタケなどの具材を入れた鍋料理のこと。

鶏肉は地元の特産品でもある比内地鶏を使うのが主流で、濃厚な出汁がきりたんぽの味を一層引き立てます。秋田の人たちにとって、きりたんぽは家族や友人たちと囲むふるさとの味のひとつでしょう。

秋田県北部の鹿角市や大館市エリアが発祥とされ、この時期には各地できりたんぽ祭りやイベントも開かれ、今では秋田県を代表する郷土料理として全国的に有名になりました。

囲炉裏を囲んで、きりたんぽを焼くのも醍醐味の一つです

きりたんぽは、炊いたご飯をすりつぶして串に刺して香ばしく焼いた「たんぽ」を、切って鍋に入れるため「きりたんぽ」と呼ばれます。

その名前の由来には、串に刺し焼いたご飯がガマの穂に似ていて、短い穂の意味である「短穂」から「たんぽ」と呼ばれるようになった説、または、槍の稽古に使われる「たんぽ槍」に形が似ているため呼ばれるようになった説などが語られています。

発祥には諸説あり、マタギなど狩猟や炭焼きのために山に籠る人々が、携行食として炊いたご飯を棒にまきつけて持っていったとか、残り飯や冷や飯をつぶして棒を刺して焼いて食べていたものをたまたま鳥鍋に入れたらおいしかったとか、実にさまざまな物語とともに伝わってきました。

菅江真澄の日記に登場する「たんぱやき」(1794年)(出典:国立国会図書館デジタルコレクションより)

少なくとも、その歴史は江戸時代にまで遡れるとされており、古くは、江戸時代に東北地方を旅した紀行家・菅江真澄(1754〜1829年)が記した日記の中に、「たんぱやき」なる食べ物が登場します。

これは、うすで搗いて潰したご飯を握り飯にして、味噌をつけて焼くなどした食べ物だったようで、現在のきりたんぽの古い姿ではなかったかと考えられています。

幕末以降は「きりたんぽ」の文字が文献に散見されはじめ、お客に振る舞ったり、鍋を囲んで食したりと、次第に現在の鍋料理に近いかたちになっていったようです。

日本有数の米どころでもある秋田県

秋田県は米の生産地として有名で、特に「あきたこまち」が代表的です。秋の収穫期には、黄金色に染まる稲穂が一面に広がり、米作りの風景が地域全体を包み込みます。きりたんぽは、その収穫を祝う食文化の象徴でもあります。

きりたんぽ祭りには地域の子どもたちも大勢集まります(写真提供:秋田県)

発祥の地とされる大館市や鹿角市では、毎年「きりたんぽまつり」が開催され、多くの観光客や地元の人々が集まります。

お祭りでは、伝統的なきりたんぽの調理法や文化を紹介し、地元の食材を使用したきりたんぽ鍋の試食や、きりたんぽを作る体験が行われ、子どもから大人まで幅広い層が参加します。こうしたイベントを通じて、食文化が楽しく自然に次の世代に伝えられているのです。冷たい風が吹く中、温かい鍋料理を囲む体験は、訪れる人々に秋田ならではの旅情を感じさせてくれますね。

2022年には、地域に根付いた伝統的な郷土料理や食文化の保護・継承を目的に文化庁が選定する「100年フード」の有識者特別賞も受賞した「きりたんぽ」。これからも、秋田の味として受け継がれていってほしいですね。

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清絢

食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。

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