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マツ

旬のもの 2024.12.29

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

年の瀬も近づき、正月の準備をはじめる季節となりました。正月飾りの主役は、なんといってもマツ(松)。常緑樹のマツは不死と再生を象徴する神聖な木で、日本人は古来、畏敬の念を込めて大切にしてきました。年のはじめに門松(かどまつ)を飾り、山から下りてくる歳神(としがみ)が宿る依代(よりしろ)として、一年が良き年であるよう祈りを託します。

パインアップル(Pineapple)の語源は「松かさに似たリンゴ」

マツは裸子植物のマツ科マツ属の常緑針葉樹で、赤道から北極圏までの北半球に約100種類が分布します。細長い針のような葉をつけ、ウロコ状の殻に包まれた松かさ(松ぼっくり)と呼ばれる実をつけることが共通の特徴です。

属名の学名はPinus(ピナス)、英名はPine(パイン)。ちなみにパインアップル(Pineapple)は、果実の形が松かさに似ているので、「マツのようなリンゴ」という意味で名付けられました。

花は雌雄同株で、松かさとなる雌花は枝の先端に、花粉を出す雄花はその下に群れて咲きます。小さな松ぼっくりが横向きに混じっていたら、生長途中の前年の果実です。種子には翼がついていて、風に乗って遠くへ運ばれます。

マツはセットになっている葉の数で、2葉松、3葉松、5葉松に分けられます。日本と朝鮮半島に分布するアカマツと、日本固有種のクロマツは2葉。ゴヨウマツはその名の通り5葉。
日本に自生する3葉松はありませんが、米国渡来で葉の長さが40㎝もあるダイオウマツは3葉です。アカマツは幹が赤茶色で内陸に多く、幹が黒みがかったクロマツは、海岸の防風林や東海道などの松並木に植えられています。ともに樹高は30m近くの高木になります。

歳寒三友(さいかんのさんゆう)とは、松竹梅のこと

マツの和名の語源には諸説があります。神の宿る神聖な木とされていることから、「神を待つ」、あるいは「祀る(まつる)」「祭り」などの意味も考えられます。
中国では、マツは老いてもなお繁る「百⽊の⻑」として讃えられ、神仙への憧れと不老⻑寿の夢を託されました。

寒中でも色褪せぬマツとタケ、厳寒の中で香り高く咲くウメは、宋代に始まった中国の文人画の主題として好まれ、「歳寒三友(さいかんのさんゆう)」と呼ばれます。「清廉潔白」という人間の理想を体現したと考えられたのでしょう。これが日本に入って、品格の高さを表す「松竹梅」という言葉になりました。

また、マツは秦の始皇帝に雨宿りの場を提供した功績で、「五大夫(ごたいふ)」の位を授けられたといわれます。日本でも猿楽など芸能界の棟梁や傑出した芸妓は、松に由来する「太夫」を名乗りました。

「煤払い(すすはらい)」と「松迎え(まつむかえ)」

正月の準備は12月13日から始まり、「正月事始め(ことはじめ)」といいます。この日、家の中を掃除する「煤払い」をして、その年の福徳を司る神「歳徳神(としとくじん)」がいる方向=恵方の山に入り、門松や松飾りにするためのマツの枝葉や正月の煮炊きに使う薪を集める「松迎え(まつむかえ)」を行う習わしです。

本来、門松はマツだけの飾り物でしたが、タケやウメ、さらにはハボタン、ナンテンが加わり、現在では豪勢になりました
ちなみに門松を飾るのは23 日以降28日までといわれます。29日に飾るのは九松(苦松)、31日に飾るのは誠意のない一夜松として避けられ、「二重に末広がり」の28日に飾るのが最もよいそうです。

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩の 身もこがれつつ――藤原定家(ふじわらの・さだいえ(ていか)/1162―1241)

マツを詠んだ和歌、俳句は多くありますが、そのなかでも、鎌倉時代初期に選定された小倉百人一首の選者である藤原定家の歌がよく知られています。
歌意は「松帆の浦の夕なぎの時に焼いている藻塩のように、来てはくれない人を想って、私の身は恋い焦がれているのです」――。
ここでは、兵庫県淡路島にある海岸の地名「松帆(まつほ)の浦」と、来てくれない人を「待つ」が掛け詞となっています。

マツの花言葉は「不老長寿」「永遠の若さ」「勇敢」「慈悲」。待てど暮らせど来ぬものを、いつまでも待つことは辛いもの。老いることなく永遠に生き続ける身でなければ、その願いはかなわないかもしれません。それでも希望を失わず待つ姿は、勇敢でもあります。
厳しい冬の後に新しい春の光が差し込むことを信じ、今年もまたマツを迎えたく思います。

マツ(松)

学名 Pinus
マツ科マツ属の常緑針葉樹の標準名。北半球に約100種が自生。針のような細い葉と実が「松ぼっくり」になることが特徴。建材として使われるほか、よく燃えるので松明(たいまつ)の材料となり、煤(すす)を固めると、墨になる。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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