こんにちは、料理人の庄本彩美です。
暑さの中にも、秋の風を感じるようになりました。今日は秋の味覚の王様「松茸」のお話です。
毎年、自宅で松茸を食べる人は一体どれくらいいるのだろうか?
この時期、スーパーにも松茸が並んでいるが、高くて躊躇してしまう。
田舎育ちで、山の恵みは沢山食べていたが、松茸は馴染みが薄い。
それもそのはず、実家の山ではすでに母が小さいころから松茸は取れなくなっていたそうだ。
私にとって松茸といえば、インスタントの「松茸のお吸い物」で、これでお茶漬けを作るのが好きだった。
自炊を始めて野菜の相場が分かるようになったころ、松茸の値段を見て目が飛び出そうになった。スーパーに並ぶのは中国やカナダなどの外国産だが、世界の松茸の行き着く先は日本だともいわれている。
そして国産の松茸は高級なものだと、キロ30万以上とも言われ、そんな高値でも変わらぬ人気を維持している。それほど日本人は松茸が好きらしい。
そんな松茸が、今年の7月、とうとう「絶滅危惧種」に指定された。
松茸がここまで貴重になったのには「取れる量が少ない」「人工栽培ができない」など様々な理由があるといわれている。
とても興味深いのが、プロパンガスの普及が、松茸の減少の原因だと言われていることだ。
椎茸などと違って、松茸は栄養が少ない痩せた土の方が良く育つという生態を持つ。
昔は、日々の燃料のために、人が山に頻繁に出入りをしていた。そのため落枝や落葉が溜まりすぎず、松茸の発育にちょうど良い土が保たれていたという。ガスが普及し、人々が山に入る必要がなくなることで、松茸や赤松の生育に適さない環境になっていたというのだ。
また松茸は、赤松と呼ばれる松の木の根元に生息するが、松茸が赤松に宿って育つという状況は、人工的に作り出すことができないそう。
そして赤松も人の手によって形成、管理、維持されてきた二次的な自然環境に多く生息するという。人の手の入っていない広葉樹の林の中では、広葉樹の葉で日光が当たらず、松の生育は妨げられてしまうのだそう。
このような理由から、昔の日本の里山のように程よく人の手が入った環境でないと、松茸は発生しないというのだ。
絶滅危惧種といえば、人間による乱獲や森林伐採、環境汚染などによるものが多いイメージだが、人が自然と関わりを持つことをやめた環境で、失われつつある動植物もいるということを知った。
「人と自然」といった2つに分けられるものではなく、私たちもまた自然のサイクルの中の一つのなのだと、松茸から教えられた。
思えば、私たちが動植物との関わりを身近に実感出来るのは「料理」だ。
日本人に秋の味覚としてここまで愛される松茸。その松茸もまた人間を必要としている。
次に松茸を料理する時、今までと違う思いを、私は松茸から受け取るのかもしれない。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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