こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
6月から8月にかけては、平地の身近な場所で見られる鳥の姿が一年でもっとも少なくなる季節で、鳥好きの私にとっては、少し寂しい時期でもあります。しかし山へ足を運べば、子育てに忙しい夏鳥たちに出会えます。
私が子どものころ、よく通っていたのが東京の高尾山でした。高尾山は昔からバードウォッチングの名所として知られ、多くの人が山の鳥を観察に訪れる場所です。それでも当時は今ほど人が多くなく、静かな山道を歩きながら、じっくりと鳥を探すことができました。そんな高尾山での思い出の中でも、とりわけ印象に残っているのが今回紹介するブッポウソウです。飛び立った瞬間に見えた翼の鮮やかな白い斑紋は、何十年たった今でも私の目に鮮明に焼き付いています。
ブッポウソウは全長30cm。赤いくちばしと美しい青い羽が印象的な鳥です。体全体は濃い青色をしていますが、光の当たり方によっては紫色に輝いて見えることもあります。また、飛んだときに翼に現れる白い斑紋はとてもよく目立ちます。ちなみに、オスとメスの見た目にほとんど違いはありません。
ブッポウソウのなかまは世界に14種が知られており、その多くはアフリカや東南アジアなどの温暖な地域に分布しています。日本で見られるブッポウソウは、そのなかでもっとも東に分布する種で、地域によって10亜種に分けられています。
日本には5月から10月ごろにかけて本州、四国、九州の山地の森林に渡来し、繁殖します。越冬地については長らく東南アジアのどこかだろうと考えられていました。しかし近年、ブッポウソウにデータロガーという小型の記録装置を取り付けて調べたところ、直線距離で約3800kmも離れたボルネオ島まで渡っていることがわかりました。
わずか30cmほどの鳥が、毎年日本とボルネオ島の間を往復しているのです。その旅の壮大さを思うと、驚かずにはいられません。
ブッポウソウがよく見られるのは、山あいにあり、大きな木々が立ち並ぶ寺院です。この鳥は高い木の梢にとまり、空中を飛ぶトンボなどの大型昆虫を見つけると飛び出して捕らえます。そのため、見晴らしのよい巨木のある寺院は、ブッポウソウにとって格好の生息環境なのです。また、昔からブッポウソウが生息する山の森では、夜になると木の上から「ブッ、ポー、ソー」と聞こえる鳥の声が響いていました。この声にちなみ、鎌倉時代ごろから「仏法僧」と呼ばれるようになったといわれています。江戸時代に刊行された鳥類図鑑『観文禽譜(かんぶんきんぷ)』にも、和歌山県の高野山で見られる鳥として記録されており、人々は仏教の教えを唱える縁起のよい鳥として大切にしてきました。
ところが1936年、「ブッ、ポー、ソー」と鳴いていたのはブッポウソウではなく、フクロウの仲間のコノハズクであることが明らかになりました。こうして昼間に見られる青い鳥は「姿のブッポウソウ」、夜に声を響かせる鳥は「声のブッポウソウ」と呼ばれるようになったのです。
ブッポウソウは、私が子どものころに高尾山で出会えたことからもわかるように、かつては決して珍しい鳥ではありませんでした。ところが1980年代以降、各地の生息地から姿を消し、今では限られた地域でしか見られない鳥になってしまいました。その一方で、中国地方や東海地方などでは巣箱を利用した保護活動が続けられており、個体数は少しずつ回復しつつあるといいます。
子どものころ、高尾山の空を飛ぶ姿に心を奪われた私としては、いつの日か再びこの山で繁殖するブッポウソウが見られるようになることを願っています。

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。