こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
先日、近所を散歩していると、どこからかウメの香りがしてきました。その匂いに誘われるように歩いて行くと、そこには満開の梅林が。そして、花々の間を忙しく動き回る黄緑色の小鳥がいます。メジロです。

メジロは、全長12cmとスズメよりも小さい鳥。メジロという名前ですが、目そのものが白いわけではなく、目の周りに白いリングがあり、それが名前の由来です。ちょうど白いメガネをかけたような感じですね。和菓子の鴬餅とそっくりな体の色にウメの花によくいることから、「これは正に梅に鶯(うぐいす)!」とウグイスとよく間違えられる鳥でもあります。

さて、そのメジロですが、全国の平地から山地の樹林で一年中見られる鳥です。基本的には南方系の鳥なので、北海道では北に行くほど数が少なくなる傾向があり、寒さが厳しくなると南へ移動するそうです。古い図鑑を見ると、柿が実る秋になると姿を見せると書いてあり、かつては平地では秋から冬の鳥だったことがうかがい知れます。

そのためメジロは秋の季語とされているのですが、最近は平地でも一年中見られ、公園や庭の木に小さなコップ型の巣を作り繁殖するのも珍しくありません。また、東京での調査では、1970年代に比べ2010年代は繁殖が記録された地域が4倍も増えていることがわかっています。きっと、この状況を昔の鳥類学者の先生が知ったら、目を丸くしてびっくりすることでしょう。

ウメの花にくるメジロは、野鳥写真愛好家には「梅二郎」なんていう愛称で呼ばれ、親しまれる存在です。確かに白梅紅梅共に黄緑色のメジロとの取り合わせは絵になりますね。もちろんメジロは、カメラマンを喜ばすために来ているのではなく、花の蜜を食べるのが目的。大の甘党なので、花の蜜や樹液などの甘い物には目がありません。興味深いことに、彼らの舌先は筆先のような構造で蜜が含みやすくなっています。そのことからも蜜が重要な食べものである事がわかります。

メジロが蜜を食べる花は、ウメの他にもビワやツバキなどがあります。とくにツバキはメジロが大好きな花。蜜が大量にあるのでウハウハなのです。じつはこれ、ツバキの作戦。蜜を使ってメジロを呼び寄せ、花粉を運ばせる魂胆です。そのため、ツバキの花にはメジロが利用しやすい工夫が見られます。

例えば、大きな花弁は体重が軽いメジロがとまる足場になり、横向きに咲く花は鳥が頭を突っ込んで奥にある蜜が舐めやすい形です。また、冬に咲くのにも意味があります。虫が少ない時期なので、蜜は鳥にとって貴重な食べもの。ですから、必ずやってくるはずです。さらに、他に花が咲くライバルがあまりいません。こうしてツバキとメジロはギブアンドテイクの関係を築き、共に進化してきたのです。

現在、植えられているツバキの多くは、野生種のヤブツバキを品種改良した園芸種です。ウメも古い時代に中国から伝来した植物で人が植えたもの。さらに早咲きのカワヅザクラや、その後に咲くソメイヨシノなど、冬から春にかけて、街の中には園芸種の花がずっと咲き続けており、蜜を食べるメジロにとってはこの上ない状況なのです。冬の郊外の雑木林に鳥を見に行ったら、メジロが全然いなかったのに、街に出てきたら沢山いたという経験が何度もあり、冬は花がたくさんある街の方が暮らしやすい場所なのでしょう。日本人の花好きがメジロの暮らしをアシストしているわけです。

そういえば、もうだいぶ前の話ですが、私が東京・銀座の花椿通りを歩いていたら、街路樹のヤブツバキにメジロが飛んできたことがあります。この通りには資生堂の本社があり、ツバキは資生堂のシンボル。出雲から寄せられたヤブツバキが通りに植えられていて、毎年冬になると花を咲かせます。こんな大都会でも花が咲けば、ちゃんとメジロがやって来るんだなと、メジロとツバキの関係性の強さを改めて感じました。
写真提供:柴田佳秀

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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