こんにちは。俳人の森乃おとです。
梅雨も明け、真っ青な空が広がる季節となりました。人家の庭などで蔓(つる)を巻きながら、鮮やかな赤や橙色の大輪の花を咲き上らせるのは、ノウゼンカズラ(凌霄花)。炎暑の中でも美しく咲き誇るその花を目にすると、夏の訪れの喜びを深く感じるのです。

トランペットのような花を咲かせる蔓性植物
ノウゼンカズラは、ノウゼンカズラ科ノウゼンカズラ属の落葉性蔓性木本で、中国南部原産。日本には観賞用・薬用として平安時代早期に渡来したと考えられています。
漢字では「凌霄花」と表記します。「凌」は「しのぐ、上回る」の意。「霄」は「そら」。空より高いところに咲くという意味で「りょうしょう」と名付けられ、それが「のうせう」「のうぜん」となまり、蔓を意味する「かずら」が付け加えられました。

ノウゼンカズラの高さは5~10m。枝の節から気根(きこん)を出し、それを使って塀や壁をよじ登ります。気根は太くて短い、束状の未分化の組織で、土に触れると普通の根になりますが、他の木や異物に触れると、強い力で張り付きます。その特徴のため、高いところに花をつけ、遠くからでもよく目立つのです。
ちなみに英語名は「Chinese trumpet vine」。中国原産(chinese)で、トランペット(trumpet)のような花を咲かせるつる性の植物(vine)であることが由来です。

ノウゼンカズラの花期は7~8月。枝の先に円錐花序をつけ、100個近い漏斗状の花が、徐々に色づきながら開いていきます。
ひとつひとつの花は短命ですが、次々と絶え間なく花が咲き、まさに真夏を象徴する花といえるでしょう。
花径は5~10㎝ほどで、先端は大きく5裂しています。花色は赤、橙、黄。ゴム風船のように丈夫で、破けません。雄しべは4本あり、一本の雌しべは先が2裂。葉は奇数羽状複葉で、小葉は5~9枚程度。濃緑色をして光沢があります。

花からは蜜が豊富に分泌され、地面に滴るほど。そのため、メジロやヒヨドリなどの野鳥やアゲハチョウが、おいしい蜜を吸いに寄ってきます。
上に掲げた歌人・国文学者の佐佐木信綱の歌は、「ノウゼンカズラの枝が風に揺れ、こぼれた花が門前に散り、ニワトリが遊んでいる」という情景を詠んでいます。
どこか郷愁を誘い、誰しもの心にある「あの夏」を思い出させる優しい短歌です。

「花を鼻にあてて嗅ぐべからず」?
ところで、ノウゼンカズラは長い間、有毒植物とみなされてきました。何しろ、江戸時代の本草学(植物学)の大家で、ベストセラー作家でもあった貝原益軒(かいばら・えきけん)が『花譜』(1694年)の中で「花を鼻にあてて嗅ぐべからず、脳を破る」「花上の露(つゆ)目に入らば、目くらくなる(=失明する)」とわざわざ警告しているわけですから。

現在では否定されていますが、昭和時代に書かれた本には長い間有毒説が生き残っていました。その理由は不明ですが、妊婦がノウゼンカズラの花の下を通ると流産するという中国の伝説が、有毒説の基になったのかもしれません。
ノウゼンカズラの花言葉は、「栄光」「名声」「華やかな人生」など。
いずれも、英雄や勝者を祝福するファンファーレを奏でるトランペットに似た花からの連想です。

そしてノウゼンカズラは、ものに絡まり高く伸びている様子から、愛の象徴ともされます。
また、月宮に住む仙女・素娥(そが)が酒に酔い、「その髪から落ちた簪(かんざし)が凌霄花となった」という言い伝えもあります。
愛妻家として知られる俳人の中村草田男の句では、溢れ咲く艶やかな花を「シャンデリヤ」に例え、その美しさを妻に重ねて称えています。草田男にとって妻への愛は、神への信仰に等しい神聖なるものだったのでしょう。

ノウゼンカズラ(凌霄花)
学名Campsis grandiflora
英名Trumpet vine
ノウゼンカズラ科ノウゼンカズラ属の落葉性蔓性木本。中国南部原産。ノウゼンカズラ属の植物は、中国南部原産のノウゼンカズラと北米原産のアメリカノウゼンカズラの2種のみ。花期は7月~8月。茎の先端に円錐花序をつける。花冠は漏斗状で、先が5裂。花色は赤、橙、黄色。気根で高くよじ登る。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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