こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
突然ですが、皆さんはカレーライスが好きですか。私は大好きなんですが、福沢諭吉が編集した辞書『増訂華英通語』の中でCURRYという言葉をコルリと紹介したんだそうですね。きっとアメリカで聞いた発音がそう聞こえたのでしょう。例えば、アメリカンも実際にはメリケンと言った方がネイティブに近い発音になるそうですから。

そのコルリと紹介されたカレーとはまったく関係がないのですが、日本にはコルリという名前の鳥がいます。オオルリやルリビタキと同じように青い色をした小鳥で、ちょうど今頃の季節に、日本の四国と中国地方以北の山の森に渡ってきて子育てをする夏鳥です。大きさは14cmとスズメよりも小さい鳥ですが、越冬地は東南アジアで、海を越えて毎年何千㎞も往復するのですから、小さな体のどこにそんなエネルギーがあるのか本当に不思議というか、感心してしまいます。

名前は小さな瑠璃色の鳥という意味で、オスはその名の通り、体の上面が美しい瑠璃色すなわち深い青色をしています。瑠璃とは仏教の七宝の1つである青い宝石のことで、別名ラピスラズリ。宝石のような美しい青い鳥がコルリなのです。また、オオルリの輝くような青とは違い、コルリの場合はマットな感じの落ち着いた青色で、喉から腹にかけての純白とあいまって、とてもシックなイメージがします。

そのためか「山の貴公子」なんていうキャッチフレーズで呼ばれる事があります。一方、メスは褐色の地味な色合い。これは鳥ではよくあるケースで、卵をあたためる役割を持つ方が敵に見つかりにくいように地味な色になるためです。面白いことに、コルリは卵の色も青いんです。これは巣が地面の薄暗い場所に作られるため、日陰で見えにくくなる効果があるとされています。

さて、そんな宝石のような美しい色のコルリを一度でいいから見てみたいものです。そのためにはどこへ行けばよいか。本州ならば、標高1000~1500mほどのブナ林が狙い目です。そして、一番大事なのはうっそうと茂ったササに地面が覆われていること。コルリは、こんな環境が大好きだからです。5月から6月初めにかけて、そんな森を訪れると、「チージョイジョイジョイ」などと聞こえるコルリの囀りがあちこちから聞こえてくるはず。同じような環境にいるコマドリの囀りと似ていますが、コルリの囀りには、必ず「チッチッチッチチチ」と小さな声の前奏が入りますので、区別は簡単です。

さあ、鳴き声が確認できたら今度は姿を探しましょう。そう思って声がする方を注視しますが、たいていが絶望的に見通せない藪の中から聞こえて、ちらりとも姿が見えません。それもそのはずでコルリは、「声はすれども姿は見えず」の典型的な鳥の一つなんです。脚がとても長いのが特徴で、これは地面におりて歩く生活に適応した形。藪の中を囀りながら点々と移動し、地面付近にいるクモや昆虫を採食する生活を送っているのです。

こんな具合に姿を見るのが絶望的なコルリですが、諦めることはありません。じつは出会うチャンスがあるのです。それは渡って来たばかりの頃で、このときばかりは枝の上で囀る姿を見ることができます。また、早朝は高木の梢付近でも鳴くことがあるので、そのときもチャンス。でも、微妙に込み入った枝にいることが多く、ばっちり姿を見るには運が味方してくれる必要があります。

もう一つ、コルリに出会う作戦があります。それは4月末から5月初め、緑の多い公園で渡りの途中の鳥を見つけることです。この時期は平地の公園にひょっこり姿を見せることがあり、そのチャンスを狙うわけです。でも、滞在はたいていが1日か2日なので出会うには相当な運が必要。とにかく毎朝、公園に通うしかありません。

ベルギーの詩人メーテルリンクの童謡劇「青い鳥」では、幸せは遠いところにあるのではなく、身近なところにあるものだという教訓が書かれていますが、コルリという幸せの青い鳥も一瞬だけど身近な場所にいることがあるのです。その幸せに出会えるかどうか、それはあなたの運次第。その願いが叶えられたら、ものすごくハッピーな気分になることは間違いないでしょうね。

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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