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レンゲショウマ

旬のもの 2025.08.01

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

夏の盛りとなり、深山ではレンゲショウマ(蓮華升麻)が涼やかな淡い紫色の花を咲かせる頃となりました。吊り下がった花は木漏れ日とともに輝き、まるで薄暗い林の中に灯る小さなシャンデリアのよう。短い夏の間だけ、幻想的で可憐な花姿が現れることから「夏の妖精」とも呼ばれます。

ロウ細工のような美しい光沢

レンゲショウマはキンポウゲ科レンゲショウマ属の多年草。近縁種はなく、レンゲショウマ1種だけの属であり、日本にだけ自生する固有種です。東北から近畿地方、および四国に分布し、標高の高い山地や落葉樹林の林床など、冷涼でやや湿った明るい半日陰に生育します。

冬は地上部から姿を消し、春に再び芽吹き、草丈40~80cmほどになります。花期は7~8月。茎の上部に花柄を長く伸ばし、径3~4cmの花を3~7個、下向きに咲かせます。花色は薄紫で、ロウ細工のような質感と美しい光沢があります。

最大の特徴は、楕円形の萼片(がくへん)が花弁のように美しく変化し、内側に小さな卵形の本来の花弁が10数枚、壺状に丸く集まっていること。そのため花弁が二重に並んでいるかのように見えます。花弁の先端は濃い紫色で基部に蜜腺があり、微かな甘い香りを放ちます。

花は可憐ですが、葉は大形の羽状複葉。小葉は粗い鋸歯(きょし)があります。和名の由来は、花がハスの花=蓮華を思わせ、葉が同じキンポウゲ科で生薬となるサラシナショウマ(晒菜升麻)に似ていることから。「クサレンゲ(草蓮華)」の別名もあります。

学名はAnemonopsis macrophylla(アネモノプシス・マクロフィラ)で、属名のAnemonopsisはラテン語で「アネモネに似た」、種小名のmacrophyllaは「大きな葉の」という意味。英名も「アネモネもどき」の意のFalse anemoneです。

ところで、キレンゲショウマ(黄蓮華升麻)という名前の花もあります。レンゲショウマに似ていて黄色い花を咲かせることから名付けられましたが、こちらはアジサイ科で、キンポウゲ科のレンゲショウマとはまったく違う植物です。

キレンゲショウマ(黄蓮華升麻)

「天然の高山植物園」の中に咲くレンゲショウマ

残念なことに、生育地の環境破壊や乱獲などにより、現在、レンゲショウマは野生の個体数を減らしており、多くの都道府県で絶滅危惧種に指定されています。「幻の花」といわれるほどの希少な山野草ではありますが、条件がそろえば見事な群落を形成することがあります。

東京都青梅市に位置する御岳山(標高929m)は、約5万株のレンゲショウマが自生する地として知られています。これは、地元の方々の手でレンゲショウマが大切に守られ、育てられてきた地道な保護活動によるものです。

御岳山のレンゲショウマ

文筆家の田中澄江(1908~2000年)は、随筆集『新・花の百名山』(1995年)の中で、山梨・埼玉・長野の三県の境にそびえる標高2,475mの甲武信岳(こぶしがたけ)を代表する花の一つとして、レンゲショウマを次のように紹介しました。

――山道に入って、渓流沿いの道を蛇行して登ってゆく途中は、ズダヤクシュ、レンゲショウマ、ヒメイチゲ、エンレイソウ、ツバメオモト、アズマイチゲ、ツルネコノメソウ、コチャルメルソウと、まるで、天然の高山植物園の中をゆくような賑やかな花の出迎えである。――

山と花を愛すればこそ、高山植物たちが華やかに咲きそろう中で、レンゲショウマもまた、これからも変わることなく花を開き続けることを願います。

ふっくらと 俯(うつむ)いたまま 咲いて散る レンゲショウマの 花のしずけさ――鳥海 昭子(とりのうみ・あきこ/1929~ 2005年)

レンゲショウマの花言葉は「伝統美」です。うつむき加減に咲く奥ゆかしい佇まいが、夏の茶花としても好まれ、古くから受け継がれてきた侘び寂びの美意識に重ねられたことから生まれました。

歌人・エッセイストの鳥海昭子の歌では、レンゲショウマの「しずけさ」にフォーカスして詠まれています。花は盛りを迎えるとすぐに散る――。そのはかなさは万物みな共有するものです。目立たず、騒がず、たおやかに咲いて散る。その「ふっくら」とした静寂の中で、レンゲショウマの気高き姿は、いつまでも心に余韻を残し続けることでしょう。

レンゲショウマ(蓮華升麻)

学名 Anemonopsis macrophylla
英名 False anemone

キンポウゲ科レンゲショウマ属の多年草で、1属1種の日本固有種。東北から近畿地方、四国の山深い落葉樹林の林床などに自生する。草丈40~80㎝。7~8月、茎の上部に花柄を長く伸ばし、淡紫色の花を吊り下げて咲かす。クサレンゲ(草蓮華)とも。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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