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茶碗蒸し

旬のもの 2025.11.01

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「茶碗蒸し」についてのお話です。

茶碗蒸しは、私にとって少し特別な料理だ。

母はよく茶碗蒸しを作ってくれていた。大抵、筑前煮を作った翌日に、リメイクされて茶碗蒸しが食卓に並ぶ。
「煮物で作った茶碗蒸しかぁ…」と子どもながらに思っていたが、その味は間違いなく美味しいものだった。卵液の中に隠れた具材を「次は何が出てくるかな?」とスプーンで掘りながら食べる宝探しのような楽しさもあって、茶碗蒸しは私の好物のひとつだった。

大学入学とともに地元を離れ、帰省した時のこと。久しぶりの家族との再会に少し照れくささを感じながらも、「ただいま〜」と家に入ると、台所から「おかえり」といつものように母の声が返ってきた。夕食の準備のする母の手元を見ると、筑前煮と茶碗蒸し用の蒸し椀が置かれていた。

「今日は茶碗蒸しだよ」と言いながら、母が筑前煮の人参や鶏肉、椎茸、里芋を取り出し、食べやすいように小さめに切る。それを私は蒸し椀に分けて入れていく。ずっと使っている茶碗蒸し専用のぽってりとした昭和レトロな青柄の蒸し椀。これの器を見るだけで、私のテンションは上がってしまう。あとは地元名産の蒲鉾と庭で採れたネギを追加すれば、具材は完成だ。

ボウルに卵と出汁を入れたらさっと混ぜて、均等に流し入れていく。蒲鉾やネギがほわんと表面に浮いてきて、蒸されるのを今か今かと待っているようだ。

年季の入った無水鍋に水を張って沸騰させたら、蒸し椀をそっと入れて10分程度蒸す。
「早く食べたいなぁ」。他の食卓の準備をしている間に、出来上がりのタイマーが鳴った。
火傷に注意しながら取り出し、茶碗蒸しを待つだけの食卓に運ぶ。立ちのぼる湯気越しに、久しぶりに家族全員が揃った。

私はアツアツの蒸し椀を慎重に手元に引き寄せた。出汁と卵が混ざり合った懐かしい香りが鼻をくすぐる。つやつやに輝く表面にすっとスプーンを入れると、ぷるんっとほどよい固さ。口に運べば、なめらかでとろけて無くなるような食感。ほんのりと筑前煮を感じる具材と、優しい卵出汁の相性はバッチリ。懐かしい、母の作る茶碗蒸しの味だ。

一人暮らしを始めて感じた、家事や料理などをしてくれていた母のありがたみ。そういえば、あまり料理の感想とか母に伝えたことってなかったなぁ。「私、母さんが作る茶碗蒸し好きなんだよね」と照れ臭くなりながらも、ぼそっと伝えた。
冷えていた身体もほっこり温まり、久しぶりの家族団欒に花が咲いたのだった。

それからも母は、「茶碗蒸し好きって言ってたもんね」と、帰省するたび茶碗蒸しを作ってくれた。いつしか私自身も、「今日は疲れたな」とか「ちょっとほっこりしたいなぁ」という時は、決まって茶碗蒸しを作るようになった。
茶碗蒸しは私にとって、母の愛情を感じる料理のひとつとなったのだった。

寒い季節の到来を感じる11月。出汁の旨みと優しい卵の味わいの茶碗蒸しに、癒されてみてはどうだろうか。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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