こんにちは。気象予報士の今井明子です。
今日は「颪(おろし)」についてお話しします。
あまり見慣れない漢字ですが、漢字を分解すると「下」「風」となります。この漢字が指し示す通り、「山の斜面を下る風」を指す言葉です。
皆さんは「六甲おろし」「赤城おろし」なんて言葉を聞いたことはありますか?
どちらも冬にその地域で吹く冷たくて強い風で、西高東低の冬型の気圧配置になったときに、シベリア高気圧からの季節風が山を越えて吹き下ろします。
通常、風が吹き下ろすときは、標高が下がるにつれて気温が上がっていくものです。しかし、冬の季節風はとても冷たいため、その風がふもとまで風が吹き降りて多少気温が上がったところで、風が吹く前よりも気温が下がってしまうのです。このようなタイプの「おろし」はボラといいます。
「おろし」には、西高東低の冬型の気圧配置のほか、台風や低気圧が近づいたときに発生するものもあります。湿った風が山を越えて吹き降りると、今度は気温がぐっと上がるフェーン現象が発生します。たとえば富山県の「神通おろし」は、春と秋に日本海を通過する低気圧から吹く風が山を越えるときに発生しますが、2020年9月3日に吹いた神通おろしではフェーン現象が発生し、新潟県三条市で40.4℃という高温を記録しました。
このように、同じ山を越えて吹き下ろす「おろし」でも、吹く前に比べて気温が下がるものと上がるものがあります。どちらにしろ、その風は特徴的なので、その場所の地名がついて「〇〇おろし」という名がつくわけですね。
私の出身は兵庫県西宮市なので、冬になるとヒョオオーという音とともに冷たい風が吹き降りてくる六甲おろしが身に沁みました。学校の帰りに、身を縮めながら歩いたことを今も思い出します。しかし、この六甲おろしは、冷たい風が、蒸した米を冷ますのにぴったりだということで、灘の酒造りに活用されてきました。厳しい気象条件は、時としておいしいものをはぐくむのです。

今井明子
サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。
