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ビワ

旬のもの 2025.11.28

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北風が木の葉を散らす頃、寒さに抗うようにして花開くのがビワ(枇杷)の花。どこか寂しげでありながらも優しい香りを辺りに漂わせるビワは、キク科のツワブキ(石蕗)、ツバキ科のサザンカ(山茶花)と並び、代表的な「冬の花」の一つです。

「ビワの木を庭に植えると病人が出る」?

ビワは、バラ科ビワ属(またはシャリンバイ属)の常緑高木で、中国南西部原産です。和名は中国名「枇杷(ぴぱ)」の音読みに由来。果実や葉の形が楽器の琵琶に似ていることから名付けられました。

最も古くから栽培される果樹の一つであり、前漢の黄金期を築いた第7代皇帝・武帝(ぶてい/前156~前87年)の庭園にて植栽されたことが始まりとされます。日本では主に関東以西の本州、四国、九州の暖地に分布し、広く栽培されています。

ビワの果実が黄橙色に熟すのは5~6月。直径3~4㎝の楕円形で全体が柔らかい毛に覆われています。葉は長楕円形で長さ15〜20cm。葉肉はゴワゴワと厚く、葉縁にはギザギザした鋸歯(きょし)を持ちます。表面は濃い緑色で光沢があり、裏面には褐色の産毛が密生します。

ビワの枝葉は成長が早く、放っておくと樹高が10mにも達します。鬱蒼として風通しが悪くなり、高所に実った果実の収穫も難しくなるため、家庭栽培では適切に剪定し、2m以内に保つことが理想的です。

「ビワの木を庭に植えると病人が出る」という言い伝えはよく知られており、その理由の一つとして、冬でも大きくて厚い葉が茂るため、家屋の日当たりが悪くなり湿気が溜まるからという説があります。

バニラに少し似たトロピカルな芳香を放つ

ビワの花期は11~1月、枝先に長さ10〜20cmの円錐花序(えんすいかじょ:全体が円錐形に見える花の並び方)をつくり、100個前後の花が固まってつきます。花は径約1cm、5枚の花弁はクリーム色を帯びた白。寒さを防ぐため、花弁の内側の下部、萼、花序には褐色の軟毛が密生しています。

木が育って高くなると、枝先の花が下から見えづらく、花そのものもバラ科の果樹の中では地味で控えめ。そのためせっかく咲いていても気付かれないことが多くあります。
でも、機会があれば、ぜひ花にそっと鼻を近づけてください。バニラに少し似たトロピカルな芳香に驚くとともに、さすがは「香りの女王」と呼ばれるバラの仲間だと納得していただけることでしょう。

「枇杷葉湯 (びわようとう)」は江戸時代の流行りもの

ビワは、奈良時代から平安時代に薬用として中国より渡来したとされます。当初、その果実は小粒で酸味が強いため、食用には不向きでした。栽培が本格化するのは、江戸時代後期になってから。中国から大粒で甘い「唐びわ」が輸入され、これをもとに長崎市茂木(もぎ)町で現代のビワ品種の祖先となる「茂木ビワ」が作出されました。

食用としての栽培は江戸時代からですが、古来、ビワには多くの薬効があることで知られてきました。古い仏教経典では薬の王様の樹=「大薬王樹(だいやくおうじゅ)」と記され、その効能が仏教とともに日本へと伝わりました。

葉は生薬の「枇杷葉(びわよう)」として名高く、咳止めや利尿剤などとして民間療法にも使われ、鎮痛のため患部に葉を直接貼り、あるいはお灸の下に敷くなどしてきました。

江戸時代から明治時代にかけて、大流行したのが「枇杷葉湯 (びわようとう)」。乾燥させたビワの葉を肉桂(にっけい)・甘草(かんぞう)・甘茶(あまちゃ)などの生薬と合わせて煎じたもので、渇きを癒やすだけではなく、暑気払い、食中毒の防止などに効果があるとされました。天秤棒で荷を肩にした枇杷葉湯売りが流し歩く姿は、「夏の風物詩」として親しまれていたそうです。

花言葉は「治癒」「温和」「あなたに打ち明ける」

花言葉の「治癒」は、ビワの薬効から生まれました。「温和」は淡い黄金色の果実の、上品で優しい味わいから。「あなたに打ち明ける」は、静かな花姿でありながらも芳しい香りを漂わせることからでしょう。
花と樹木を愛した歌人、稲葉京子(いなば・きょうこ/1933~2016年)には次のような一首があります。

いづこより 来し祝福か びわの花 天の光を とどめゐるなり

花の乏しい冬枯れの季節、ビワは天からの祝福のようにあわあわと咲いています。その花蜜はハチやアブなどの昆虫、メジロ、ヒヨドリなど野鳥の重要な餌でもあります。彼らを驚かすことなく、穏やかにビワの花を愛で、その饗宴を祝したいと思います。

ビワ(枇杷)

学名:Rhaphiolepis bibas;シノニム: Eriobotrya japonica
英名:Loquat,Japanese medlar

バラ科ビワ属(またはシャリンバイ属)の常緑高木で、中国南西部原産。樹高10mほど。花期は11~1月、長さ10〜20cmの円錐花序をつくり、100個前後の花をつける。花は径約1cm、5枚の花弁はクリーム色を帯びた白。芳香を放つ。古来、薬樹の王と称され、葉は生薬の「枇杷葉(びわよう)」。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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