こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
「スポーツの秋」、「読書の秋」、「芸術の秋」など、秋にはいろいろなキャッチフレーズがありますね。そういえば、「実りの秋」というのもあります。この季節は栗やドングリなど、さまざまな樹木が実をつけ、次の世代へバトンをつなぐ準備をします。そして、こうした木の実は、多くの生きものたちにとっては貴重な食べものでもあり、私たち人間もその恩恵にあずかっています。
今回、紹介するホシガラスは、そんな木の実と密接な関係を持つことで知られる鳥です。
大きさは35cm。ハトくらいのサイズの小型のカラスです。体の色は黒に近い焦げ茶色で、顔からお腹までの体の半分には、たくさんの白い斑点模様があります。その姿はまるで漆黒の空に星を散りばめたかのよう。そんなことからホシガラスという素敵な名前がつけられました。なお、オスとメスで色や模様には違いはありません。
ホシガラスは、ヨーロッパから東アジアにかけてのユーラシアに広く分布する鳥で、日本では北海道から九州までの主に高山帯や亜高山帯に生息しています。登山をされる方ならば、もしかしたら見たことがあるかもしれませんね。森林限界を超えたあたりで「ギュアー、ギュアー」としわがれた声で鳴く黒っぽい鳥がいたとしたら、ホシガラスだった可能性が高いでしょう。
そんな高い山で出会えるホシガラス。なぜ、そんな高い山に棲んでいるかというと、それは食べものがあるからです。彼らの主食は、ハイマツの実。ハイマツは本州中部の山岳地帯では、標高2500m以上に生える植物です。そのハイマツの実を求めて高い山にいるというわけなんです。ハイマツは寒冷な気候を好む植物なので、気温が低い東北では標高1600m以上から生えていますし、さらに北海道では標高500m位の山でも生えています。ですから、東北や北海道では、ホシガラスは特別高い山ではなくても生息しているのです。
因みに日本一高い山の富士山にもホシガラスがいるのですが、ここではゴヨウマツの実を食べています。富士山にはハイマツがないので、その代わりだと思いますが、これはちょっと特殊な例でしょう。
さて、そんな魅力的なハイマツの実ですが、実がなるのは夏から秋の期間限定。それ故、その他の季節には利用できないという困った問題がおこります。そこで彼らは知恵を使って困難を乗り切っています。
その知恵とは「実を貯えること」。マツボックリから種子を取りだしては口の中に入れ、地中や木の上などの思い思いの場所に隠します。そして、あとで掘り返して食べるのです。その行動を詳しく観察した研究では、1回に平均142個の種子を口の中に入れ、平均12個ずつ小分けにして隠していくのだそうです。さらに驚くのは、ホシガラスの近縁種で、アメリカにいるハイイロホシガラスです。1羽が1年あたり約3万2千個のシロマツの種子を貯えたという調査結果があります。
そこで気になるのは、そんなにたくさん隠して、忘れないのかということです。答えは「忘れることもあるようだ」で、ハイイロホシガラスの研究では、貯えた種子の約55%が回収されたという結果でした。要するに45%は利用されなかったということです。ただ、「貯えた場所を見つける能力」を測った研究では、約80%は覚えていたというので、20%ほどは忘れ、あとは食べきれないくらい貯えているといった方が正確な感じがします。
そんな忘れられた種子のなかには、芽生えて松の木に成長するものもあります。要するにホシガラスがあちこちに種子を貯えることで、結果的に種を蒔き、森を作っているわけです。そして、その森が育てた木の実を、またホシガラスが食べる。食べるために貯えた木の実が、めぐりめぐって自分たちの食べものを生み出しているのです。秋の山でせっせと木の実を運ぶホシガラスを見ていると、森と鳥はこんなふうにつながっているんだなあと、いつもながら感心してしまいます。

柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
