こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
日本の春を代表する花と言えば、やはり桜を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
「桜前線」という言葉があるように、その時期は地域によってさまざまですが、一つひとつの木に開花の時が訪れると一斉に咲き誇り、全力で花を咲かせた後はあっという間に散ってゆきます。
その美しくもどこか儚さを感じさせる姿に、人は出会いと別れの季節でもある「春」を重ねあわせ、喜びと少しの切なさを胸に抱くのかもしれません。

しかし、花が散った後もただ淋しさを感じさせるだけで終わらないのが、桜の素敵なところなのではないでしょうか。
時に、花と一緒に楽しむことができる、萌黄色(もえぎいろ)の若葉――。白や薄桃色の花びらの合間に、日の光を透かして光る若葉は、私たちの心に新たな希望を与えてくれているようにも思えます。

今回ご紹介する「桜若葉」という言葉は、俳句の季語にもなっています。
いわゆる「葉桜」と同じ意味で、花が散り若葉だけが青々としている桜の木のことを言い、初夏の季節を表現する瑞々しい言葉です。
「桜若葉」には「葉桜」という言葉以上に、日本人が愛してやまない花を惜しむ気持ちと、若葉の宿した新たな希望が、そのひと言の中に込められているのを感じてなりません。

たとえ花が完全に散ってしまった後でも、木にはもうすでに新たな命の息吹が宿っています。そこから本格的な夏に向けて、さらに力強く空へと葉を伸ばしてゆくことでしょう。
終わりは新たな始まりの前触れ、とも言います。桜の木にとって、散りゆく花は、次の季節へのたしかなバトンになっているのです。

そういえば、日本人は自然の姿や季節の移ろいを、人の一生と重ね合わせることが多いような気がします。
誰の人生にも、山があれば谷もあり、時には哀しみや絶望が影を落とすことがあるもの。
人生における美しい花の季節が去ったときにも、その淋しさや哀しみに打ちひしがれることなく、そこを新たな希望の始まりとして歩き出すこと……。春になるたび、桜は人知れず、そっと教えてくれているのかもしれませんね。

桜といえば、つい花の方にばかり目が行きがちですが、今年は若葉の姿もじっと観察してみてください。
小さな葉っぱの健気で愛らしい姿に、きっと元気をもらえることでしょう。

紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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