こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
本格的な、梅雨の時期がやってまいりました。
私たち人間にとっては、あちらこちらにカビも生えるし、お出かけするにも場所を選ぶし、湿気で髪形もいまいち決まらないし……なんて、憂鬱ごとの多い梅雨の長雨。
ジトジト、ジメジメといった擬音でも表現されるこの季節に、マイナスイメージも強いのではないでしょうか。
しかし、ふと外に出て周りの景色を眺めてみると、植物たちの姿のなんと生き生きしたことでしょう!
それもそのはず、植物にとってはこれからの本格的な暑さを前に、雨はまさしく「恵みの雨」だからです。
きっと、たくさんの潤いを、土の中いっぱいに溜め込んでおきたいくらいの気持ちなのではないでしょうか。
緑の葉先からたくさんの露を滴らせ、雨の染み込んだ土の香りをまといながら、新緑の時期からさらに色を深く染めていきます。
この季節、特に美しい花を挙げるとするならば、街角や家屋の周りなどに植えられた色とりどりの紫陽花(あじさい)、そして色濃くなってきた緑に映える真っ白な卯木(うつぎ)の花などでしょうか。
「うつぎ」の花と言われると、あまりピンと来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、これは別名「卯の花」と呼ばれています。
「夏は来ぬ(なつはきぬ=夏が来た、の意)」という歌の出だしにも、「♪卯の花の匂う垣根に、時鳥(ホトトギス)早も来鳴きて……」と卯の花が登場しています。
お料理にも、白いおからの炊いたん(炒り煮)に「卯の花」という名前がつけられていますが、あれはおからのやさしい色とやわらかな形が、卯の花に似ているとされているから。
たしかに、緑の木々の合間にある小さく可憐な印象の花たちは、ともすると欝々としかねないこの季節に、心をふんわりと彩ってくれるようにも思えます。
そして、この5月から6月上旬頃にかけて、降り続く梅雨の長雨のことを「卯の花くたし」という言葉で表現するのですが、「くたし」というのはどんな字を書くかご存知でしょうか。
実は「くたし」は「腐し」と書き、その字の通り「卯の花を腐らせてしまいそうなほど、長く続く雨」という意味があるのです。
この言葉は、初夏の季語として俳句の中にも使われることがあるのですが、可愛らしい花が「腐る」だなんて……と、ちょっとインパクトの強い言葉選びにはドキッとしてしまう気もしますよね。
でも、よく考えてみれば「卯の花くたし」は日本人の感性が生み出した、草花に対する究極の思いやりが感じられる言葉なのではないかと、私は妙に納得してしまいました。
「こんなに雨が続いていると、今が花盛りの、あの真っ白で可憐な卯の花が腐ってしまうのではないかな。さすがに心配になりますよね……」と、まるで誰かに話しかけられているような言葉にも感じられます。
自分たち人間のことだけでなく、この地球で共に生きている草花のことも、大切な仲間のようにそっと慮るその気持ちが、心にほんのりと温かみを残してくれるような気がするのです。
私たちの国には「二十四節気」や「七十二候」をはじめ、俳句の「季語」など、季節の移ろいや美しい情景を描いた情緒豊かな言葉が本当にたくさんあります。
季節を表現する言葉がこれほどまでに豊富で奥深いのは、おそらく日本語くらいのものなのではないでしょうか。
この国の歴史の中で、素敵な感性を表現する美しい日本語を生み出した先人たちのことがとても誇らしく思えるのは、きっと私だけではないはず。
これからも、少しずつそれらを拾い集めては、心そのもので言葉を楽しみ感じる暮らしをしていきたいものですね。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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