こんにちは。写真家の仁科勝介です。2018年3月から2020年1月まで約2年、日本の全市町村を巡っていました。暦生活さんでは「日本の景色」を書かせていただいています。
言わずもがな、今日は3月11日です。目には見えない感情に声をかけ、深呼吸をし、言葉を形にしたり、しなかったり、何かが分かったり、分からなかったり、当事者の方であっても、そうでない方でも、同じく手を合わせて祈る日。ひとつの大きな祈りの箱を、わたしたちが責任を持って届ける日。それは天にも、未来にも。
市町村一周の旅をしていて、日本は多くの災害に向き合っていると実感しました。驚くほど多い、というのが嘘のないぼくの実感です。しかし、当事者ではありません。地元の倉敷市では2018年に洪水が発生しましたが、当時は旅をしていました。もちろん、たくさん考えさせられました。とにかく、ぼくは今日を祈ります。
さて、旅で出会った桜に、いままで焦点を当てたことがありませんでした。とは言っても、日本中の桜と出会ったわけではありません。原付旅でしたし、南から北へ桜前線とともに! って、やってみたかったですけれども。まだまだ経験値の浅い人間ですが、旅以降、日本で出会ったいくつかの桜を、先取りという形でご紹介したいと思います。
山口県山口市、一の坂川です。京を模してつくられたまち並みで、鴨川に見立てられています。旅を始めて数日でしたが、初日に原付で大怪我をした、という事実を親や友人に言い出せず、アリバイを作るために、足を引きずりながらこの写真を撮った思い出があります。
島根県津和野町です。意気込みましたが、怪我で桜の時期は中国地方にだけいました、すみません。神社の上から撮った写真ですが、飾らない暮らしがいまも聞こえてくるようで、どこでもドアがあれば明日行きたいです。
福島県三春町の三春滝桜です。到着したのは9月でした。天然記念物に指定され、樹齢は推定1000年を超える名木。9月ですら、迫力に圧倒されたことを覚えています。素晴らしい名木は、年間を通して見たいですよね。
旅が終わって、街中になりますが、渋谷のハチ公前広場です。わっ、ここにも咲いているんだ、って。頭に浮かぶ景色だけが日本の景色ではないことを、東京にも教えてもらったのでした。
そして記事の冒頭、1枚目は福島県富岡町の「夜の森」の桜並木。さらにこの写真は、福島県大熊町のダムで撮った桜。となり町同士です。
夜の森の桜はまちのシンボルであり、とにかくありがとうという気持ちでした。ダムの桜は、地元の方が好きだと話してくださった場所です。観光客はいませんでした。人に多く見られる桜も、そうでない桜も、「咲いている」という存在が、大切なのだと思います。
どれだけ旅をしても、すべての桜を見ることはできないでしょう。それでいいと思っています。近所でも、遠く離れた場所でも、同じこの国のどこかで、桜は咲いている。そのことを想像できることが、何よりの幸せではないでしょうか。
写真:仁科勝介
仁科勝介
写真家
1996年岡山県生まれ。広島大学経済学部卒。2018年3月に市町村一周の旅を始め、2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。2020年の8月には旅の記録をまとめた本、「ふるさとの手帖」(KADOKAWA)を出版。好きな季節は絞りきれませんが、特に好きな日は、立春です。
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