こんにちは。ライターで僧侶の小島杏子です。
「お坊さんって、早起きなんですよね?」と尋ねられると、静かにその場を立ち去りたくなるほど、昔から朝が弱い体質です。春だけと言わず、夏秋冬も寝過ごしがちな私ですが、本日のテーマは「春眠暁を覚えず」。春のねむりの心地よさを詠み込んだ有名な漢詩「春暁」の冒頭です。
春 眠 不 覚 暁
処 処 聞 啼 鳥
夜 来 風 雨 声
花 落 知 多 少
春眠暁を覚えず
処処啼鳥を聞く
夜来風雨の声
花落つること知る多少
春のねむりは心地よく、朝が来たことにも気づかずうつらうつらしていると、あちらこちらで鳥の鳴く声が聞こえてくる。そういえば昨夜は風雨の音がしていたが、花はどのくらい散ったのだろうか。
白文でも書き下し文でも、文字を眺めても声に出しても美しい、五言絶句の名作です。昨夜の雨に降られた花のことを思いつつも、外に出て確認してみるほど気になっているわけでもなく、ただ春のねむりに身をゆだねてうとうととしている平和な様子がありありと浮かんできて、読んでいるこちらまで布団に引き寄せられるようです。
作者の孟浩然(もうこうねん/もうこうぜん)は襄陽、現在の湖北省襄陽市の人。放浪の人生を送った人物で、40歳のときには長安に出て同時代の詩人・王維と親交を結びます。彼の紹介で当時の玄宗にも目通りを許されたと言われますが、結局は官職につかず、また科挙にも及第できずで、都を辞しました。その後、地方の幕僚に招かれたこともあったそうですが、それも長くは続けず郷里へと戻ったと伝えられています。
なにやら飄々とした人物だったようで、数冊の辞書を引いていくと、官職になる機会を失ったのは約束の時間をすっぽかしたからだとか、玄宗の前でも機嫌を損ねるようなことをしてしまっただとか「本当に官僚になる気があったのか?」というようなエピソードも出てきます。それらの逸話の真偽はわかりませんが、春暁のような詩をつくる人は確かにふらふらとしてどこか憎めない感じがあったのではないかなどと想像を膨らませてしまいます。
孟浩然が生きたのは唐の時代。なかでも優れた詩人たちが数多く現れた玄宗・粛宗の治世を生きた人です。同時代には、李白と杜甫という唐代の漢詩の最高峰とも言える詩人たちも。
前の時代である六朝の詩人が貴族ばかりであったのに対し、この唐という時代を代表する詩人たちは、貴族出身者はほとんどいません。市井に親しみ、政治にも関心は持ちつつも自然を抒情的に描いた漢詩など新しい形のものが多く生み出されました。
特に孟浩然は、王維とともに、田園山水といった自然をうたう新しい潮流を作った人物として並び称されています。李白や杜甫も、孟浩然の漢詩を「吾は愛す孟夫子、風流天下に聞こゆ」(李白)などと称えています。
しかし、現在では日本の教科書に載るほど有名な彼らの漢詩は、当時はあまり評価されなかったといいます。まだまだ貴族たちが作る六朝時代風の漢詩が評価される世の中で、「ちょっと変わった詩」としか思われていなかったのだとか。彼らの漢詩が名作として評価されるようになるには、次の世である宗代を待たねばなりませんでした。
この「春暁」という漢詩ですが、「国破れて山河あり」の冒頭が記憶に残る杜甫の「春望」とともに、中学校に入学したばかりのころ習ったような記憶があります。
まさに春の日差しのあたたかさが満ちた教室で、心地よい五言の漢詩を音読しつつ「ああ、いますぐ家の布団にもぐりこんで気のすむまでうつらうつらしていたい」と、眠気と戦っていたような気がします。
桜は盛りを迎え、春深まるこの頃。新しい生活に慣れず、疲れが溜まっている人にも、春特有の落ち着かない気持ちが拭えずにいる人にも、花粉症でつらい思いをしている人にも、布団のなかでは心地よい春のねむりが訪れるといいなと思います。
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