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春霞はるがすみ

季語 2020.04.15

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こんにちは。気象予報士の今井明子です。
ぽかぽかと暖かい日が増えてきました。「春眠暁を覚えず」というように、この季節、頭のなかはなんとなくぼんやりしてしまうもの。そして、空気もどことなく、もやーんとしているように感じます。
これって気のせいなのかと思うかもしれませんが、気のせいではありません。その証拠に、冬に見えていた遠くの山が、春になると見えなくなります。春は見通しが悪くなるのです。

この季節のこのぼんやりとした見通しの悪い空気のことを「春霞(はるがすみ)」といいます。

では、春霞の正体は何なのでしょうか?
実は、霧や靄(もや)とは違い、春霞という言葉には学術的な定義はありません。空気を霞ませているのは、水蒸気、花粉、ホコリ、そして中国大陸から運ばれてきた黄砂や大気汚染物質などさまざまです。

しかし、不思議ですよね。同じ季節の変わり目なら、秋だって春のように空気が霞んでいてもよさそうなものです。なのに秋の空気は澄んでいて、「天高く馬肥ゆる秋」なんて言われます。
なぜ、春だけが霞むのでしょうか。

それは、春に発生する上昇気流と関係があります。気温が上がって地面から上空に向かって上昇気流が発生すると、地上付近にある砂やほこりなどが巻き上げられて空気中に漂いやすくなるのです。この空気中に漂ったホコリは、太陽の光を散乱させて白っぽく見えるようになります。

また、気温が上がると冬よりも空気中に多くの水蒸気が含まれるようになります。水蒸気はもともと目に見えない気体ですが、上昇気流で上空に行けば冷えて小さな水の粒になります。この水の粒も空を白っぽくする原因です。

さらに、春にはたくさんの花が咲き始めます。花壇の花は私たちの目を楽しませてくれますが、花粉症をもたらすスギやヒノキの花も開花することを忘れてはいけません。これらの花粉も春霞の原因のひとつです。

春ならではの気圧配置も春霞を発生させます。春霞の大きな原因の一つとして黄砂が挙げられます。黄砂とは中国大陸にあるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠などの砂が偏西風に乗って日本にやってくる現象です。なぜ黄砂も春ならではの現象なのでしょうか。

まず、冬には黄砂は発生しません。冬の中国大陸の乾燥地帯には雪が積もることもありますし、ちょうどこの場所にはシベリア高気圧が鎮座しているので、砂漠の砂が巻き上がりにくい状況です。

しかし、春になって雪が溶けると、砂や土がむき出しになります。さらに、シベリア高気圧の勢力が弱まると、低気圧がやってきます。この低気圧の上昇気流によって砂や土が巻き上げられると、砂や土は上空で吹いている偏西風に乗り、日本や、場合によっては北米大陸まで到達するというわけです。

夏以降は雨が降りますし、いくらか植物も生えてくるため、春ほど砂や土が巻き上げられにくくなります。だから、黄砂は春の風物詩なのです。

ぽかぽか陽気の春霞のかかった空気は、わけもなく幸せな気分になるもの。しかし、油断すると洗濯物や車に黄砂や花粉がついて面倒な事態に…。
「春霞」という言葉自体は美しいのですが、その正体はきれいなものとは言い難いのです。

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今井明子

サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。

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