こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
現代では、なかなか直接目にする機会がないかもしれませんが、日本には「鵜飼」というちょっとユニークな漁の方法があります。
「鵜を飼う」という文字通り、飼いならした鵜という鳥を巧みに操り、川にいる鮎などの魚を獲る漁法のことを言います。
具体的な方法は、鵜の首に緩く紐を巻き付けて繋いだ状態で川に放ち、呑み込んだ中でも喉を通り抜けられなかった大きな鮎を、吐き出させて捕獲するというもの。
これは「首結い(くびゆい)」と言われる専門の技術で、紐の加減によって小さな鮎は隙間から落ちて鵜のお腹に入り、一定以上大きな魚は呑み込めないようになっています。
せっかく食べた魚を吐き出させられる……と聞くと、「えっ、それは大丈夫なの!?」「鵜が苦しくて暴れたりしないの?」と心配になるかもしれませんね。
でも、鵜を操る漁師は「鵜匠(うしょう)」と言って、その道のプロが、鵜の様子や繋いだ紐の手応え感じながら行っています。鵜の喉に鮎が溜まったと分かったら、すぐに鮎を出してあげ、無理や負担の少ない形で漁を行います。まさに「匠」の技ですね。
鵜も比較的、人に慣れやすい性格の鳥で、鵜匠も日頃から、共に漁を行うパートナーとして鵜を大切に育てています。
鵜を漁の道具としてではなく、家族の一員のように想いながら、事細かに体調管理を行っているという鵜匠も少なくありません。
鵜飼はまさに、人と鵜――お互いの信頼関係の上に成り立つ、絶妙な連係プレーだと言えるのではないでしょうか。
何よりも、これだけ長い間愛され受け継がれてきたという事実が、人と鵜という生き物の共存共栄を意味しているように思えます。
そういえば、慣用句に「鵜呑みにする」という言葉がありますね。物事をよく考えず丸呑みするかのように信じ込むことを意味していますが、まさに鵜は、魚を獲る時にも一切咀嚼をせず、丸呑みする習性があるのです。
そのため、鵜の口に入った魚は一切傷つくことなく、途中で気絶してしまうために綺麗な状態が保たれます。昔は、鵜の獲った魚は献上品にもされて、その美味しさに驚く武将も少なくなかったのだとか。
ただし、鵜飼は鵜が1尾ずつ飲み込んだ魚を取り出しながら行うため、決して漁の効率が良い方法だとは言えません。現代における鵜飼漁は、鮎を獲ることよりも、伝統文化を間近で見て、その迫力や雰囲気を体験する観光的な楽しみ方が主流になっています。
漁は基本的に夜に行われるため、船の上で焚いた漁火が暗闇に揺れる中、鵜を解き放つ幻想的な光景が楽しめるのではないでしょうか。
その姿はまるでひとつの芸術作品のようで、人と生き物が力を合わせて生きてゆく「力強さ」のようなものが感じられてなりません。
一生に一度は、間近でその様子を見て、古くから続く空気を肌で感じてみたいものです。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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