こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
日本における、昔ながらのおもちゃといえばさまざまなものがありますが、中でも女の子の遊び道具を特に挙げるなら「鞠」は外せないのではないでしょうか。
「鞠」はいわゆる、現代でいうところの「ボール」のようなもの。
しかし「鞠」は幼い女の子が可愛らしくてんてんと弾ませているイメージですが、「ボール」になったとたんに男の子が元気に走り回って追いかけているような印象に変わるのは、なんだかおもしろいものです。
でも、鞠という名前はもちろんですが、その見た目も作りも、女の子へ向けた愛情がたっぷり詰まったものであることが分かるのではないでしょうか。
その多くが赤や白、金銀など色とりどりの糸を使って作られており、華やかで芸術的とも言える愛らしい模様は、いつまで眺めていても飽きない美しさがあります。
俳句の世界では、鞠は「新年」の季語となりますので、お正月のおめでたい雰囲気や、華やかさを伝えるものでもあることが窺えますね。
また平安時代には、貴族が輪になって球を蹴りあう遊びに鞠が用いられ「蹴鞠(けまり)」と呼ばれていたことから、気品や高貴さを表すものとも捉えられていたようです。
女の子がお宮参りの際にまとう産着(うぶぎ)にも、伝統的な絵柄のひとつとして鞠が描かれていることは少なくありません。
長い糸を使って作られる鞠が「よいご縁を結ぶ」と言われる縁起物であることから、そこには親の願いと愛情がたっぷりと込められていることを感じさせられます。
また、昔は「丸いもの」である鞠そのものや、鞠の柄が入った着物をお嫁入りの道具として持たせることも多かったようです。
これは「円満な家庭を築けますように」「どんな困難に見舞われても丸く収まりますように」といった願いが秘められています。
今では考えられないことかもしれませんが、昔の日本では顔も知らない相手に嫁がなければならないこともあり、お嫁入りが家族と今生の別れになることすら決して珍しくない、そんな時代もあったといいます。
かけがえのない娘の人生をそばで見守ってくれるよう、祈りを込めて贈られた鞠も、たくさんあったのではないでしょうか。
思えば、日本に昔からあるおもちゃには、我が子に向けた切なる祈りが、そっと込められているものが多いようにも感じます。
それらは子ども自身が夢中で遊んでいる頃には気づかずとも、大人になり、やがて自分が親となるような機会が訪れたとき、しみじみと感じられるものなのかもしれません。
かつての日本人が数多くの文化や道具の中に、ひとつひとつ大切に込めてきた「祈り」や「縁起」への想い――。それは、大切な人の幸福を願う「心」の姿です。
あらゆるものに対して「機能性」や「利便性」が重視されるようになってきた現代の日本ですが、その心の在りようは失くすことなく、人から人へと受け継いでいきたいものですね。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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