季節は小雪を迎え、本格的な冬ももうすぐそこ。すっかり冷え込んで、冬らしさが増してきましたね。今回ご紹介したいのは、北陸地方などで行事食として知られる「いとこ煮」です。
いとこ煮と聞くと、カボチャと小豆を炊き合わせた料理が思い浮かぶかもしれませんが、今回のいとこ煮は、それとはまた別の料理。寒さの厳しくなるこの季節、ほっこりと温かい味わいがうれしい一品です。
この時期、浄土真宗の寺院では、「報恩講」という伝統行事が行われます。報恩講とは、浄土真宗の開祖・親鸞聖人の命日である11月28日前後に行われる忌日法要のこと。寺院や信徒のお宅などに集まり、勤行や法話のあと、皆で「お斎(おとき)」という食事をいただきます。
あまり聞き馴染みのない行事かもしれませんが、江戸時代には各地で盛んに行われていて、信徒に限らず、多くの人々が参拝に訪れ、まるでお祭りのような賑わいでした。
『江戸名所図会』(1836年)には、浅草にある東本願寺の報恩講に、法衣姿のお坊さんだけでなく、華やかに着飾った人々も参拝に訪れる様子が描かれています。老若男女が集う報恩講、当時は若い男女の出会いの場にもなっていたそうで、皆こぞって、おしゃれをして出かけたといいます。
さて、特に浄土真宗の信仰が盛んな北陸地方を中心に、そんな報恩講のお斎に欠かせない料理「いとこ煮」が伝わっています。各地で作られており、地域ごとに、見た目や味わいも異なるのがおもしろいところ。
例えば石川県では、柔らかく茹でた小豆と豆腐をゆっくり煮込んだお味噌汁風の汁物を「いとこ汁」と呼び、報恩講の味として親しまれています。
おとなりの富山県では、大根、人参、牛蒡などの根菜類や豆腐、小豆などを煮込んだ煮物風の料理がいとこ煮。具だくさんであたたかい一杯は、冬場の家庭料理としても食べられています。
滋賀県に行けば、湖北地方を中心に小豆と里芋を使った煮物をいとこ煮と呼び、ここでも報恩講や法事の行事食として受け継がれています。
これらのほかにも、日本各地に似たような料理が伝わっていますが、このように、同じ「いとこ煮」でも、ところによって結構な違いがあります。共通点のひとつは、親鸞聖人の好物だと伝わっている「小豆」が入っていること。
いとこ煮という不思議な名前も気になりますが、昔からある料理ということは間違いないよう。
古くは、安土桃山時代の文献に記されていますし、その後、江戸時代初期に編纂された『料理物語』(1643年)では、煮物の項に名前が見え、「あずき、ごぼう、いも、だいこん、豆腐、焼栗、くわいなど入れ、中みそにてよし、かように、おいおいに入れ申すによりいとこ煮か」と、名前の由来についても考察されています。
このように、「材料をおいおい(甥、甥)入れるから、従兄弟煮」説や、「事八日の行事食おこと汁が訛っていとこ汁」説。親鸞聖人の遺徳を偲んで食べることから「遺徳(いとく)煮」が訛ったという説もあるなど、語源にはさまざまな解釈がありますが、はっきりとはわかっていません。
不思議な名前とともに脈々と受け継がれてきた「いとこ煮」。温かい一杯を、ぜひ召し上がってみてください。
写真提供:清絢
清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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