令和6年が始まってもう1週間、松の内もあけようとしています。1月7日は「人日の節供」で、五節供の一つに数えられます。七草粥を食べる日として知られていますね。
人日の節供の由来は、古代中国にあるとされます。中国では、新年になると元日から八日まで占いをする習慣がありました。元日には鶏、2日は狗、3日は羊と続き、猪、牛、馬、人、稲について占うのです。7日は人について占う日、そこから「人日」と呼ばれるようになりました。そして、この日に七種類の菜を使った羹(あつもの:熱い吸い物のような料理)を食べて、一年の無病息災を願う風習があったのです。
一方、日本では、新年に「若菜摘み」といって、早春に芽吹いた若菜を摘んで、それを食すことで健康を願う風習がありました。中国でも日本でも、春の息吹を感じられる食べ物をいただくことで邪気を祓い、無病息災を祈ったのでしょう。中国の風習と日本古来の風習が融合する形で、人日の行事が出来上がっていったと考えられています。
こうした行事は、貴族社会から広まり、江戸時代には幕府によって祝日として定められ、庶民にも広まっていきました。
七草粥に入れる若菜といえば、「せり、なずな、ごぎょう(おぎょう)、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、春の七草」といった言い回しで知られる、七種類が定番です。
ですが、この七草は時代によって変化があり、室町時代の文献には、「あしな」「みみなし」といった聞き慣れない植物の名も見られました。江戸時代の『日本歳時記』(1688)には、現在と変わらない七草が登場し、「これぞ七草」と記されていることから、この頃には春の七草が定着していたのでしょう。
江戸時代には、独特の囃子言葉を唱えながら、若菜を叩き、七草粥を調理していました。
幕末の風俗を描いた『江戸府内絵本風俗往来』(1905)には、紋付小袖を着た人物が、恵方を向いて、まな板にのせた七草を刻む姿が描かれています。
この時、包丁やすりこぎ、杓子など七種類の台所道具を揃えて、「七草なずな、唐土の鳥が、日本の土地に、渡らぬ先に、七草なずな」などとはやしながら、叩くのです。これは、田畑を荒らす鳥や、疫病がやってこないように、まじないを唱えているということ。無病息災を願っていただく七草粥、こうして気持ちを込めて刻むことによって、邪気を祓う力も強く込めたのでしょうか。
今ではスーパーで七草のセットが手に入るため、簡単に七草粥が作れるようになりました。しかし昔は、まだ寒い早春に七種類の青菜を手に入れるのは、特に寒い地域ではなかなか難しかったよう。
江戸時代の文献を見てみると、例えば、現在の青森県では、塩漬けの高菜やワカメを入れた七草粥が作られていました。江戸では、なずなと小松菜、京坂(現在の京都と大阪)では、なずなとかぶ菜を入れたくらいのものだったと記され、七種類を揃えた七草粥はなかなかお目にかかれないものだったようです。
こうした資料を見ると、その土地の暮らしに合わせた、思い思いの七草粥で、人日の節供を祝っていた様子が目に浮かびますね。
何かと予定の多いお正月、気がつけばもう7日になっていて、七草粥の準備なんて忘れていた…ということもあると思います。そんな時は、冷蔵庫に残っている青菜を、心を込めて刻んだ七草粥で、一年の無病息災を願うのも良いのではないでしょうか。
写真提供:清絢
清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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