2月初めの午の日を「初午(はつうま)」といいますが、この日、日本各地の稲荷社でお祭りが行われます。これは、稲荷の総本宮とされる京都の伏見稲荷大社の神様が山上に降臨した日が、奈良時代の和銅4年(711年)の初午であったことにちなむもの。
稲作を象徴する神とされ、江戸時代には五穀豊穣、商売繁盛、病気平癒、火防信仰などさまざまな現世利益と結び付けられ、稲荷信仰は各地に広まりました。
特に江戸の市中には稲荷社が目立ち、その数は「伊勢屋・稲荷に犬の糞」と表現されるほど多かったことが『守貞謾稿』(1853年)には記されています。
『守貞謾稿』によると、江戸時代後期には初午の日に、小豆飯とからし菜の味噌和えを供え、それを行事食としていただく風習があったといいます。その後の明治34年(1901年)に発刊された『東京風俗志』には、初午の供物として赤飯と油揚げが記されています。
そもそも、稲荷社に油揚げをお供えするのは、その神の使いである狐の好物が油揚げだと考えられてきたから。甘辛く煮た油揚げを袋状に開き、すし飯を詰めたものを「稲荷寿司」と呼ぶのも、そこに由来するのです。
稲荷寿司といえば、今も身近なお寿司として親しまれていますね。関西では三角形のものが、関東では俵形のものがよく作られますが、その発祥は江戸時代に遡るといわれます。
稲荷寿司は天保の頃(1831-44年)より江戸で売られ始め、主に屋台で流行しました。江戸より以前に、名古屋で売られていたという説もあり、その発祥地は定かではありません。
当時の稲荷寿司は細長く、1本が16文、半分が8文、一切れが4文で売られていたといいますから、長いものを注文に応じて切り売りしていたようです。その長さは六寸ほどで、1本・約18センチ。すごく長いですよね。
埼玉県熊谷市に伝わる妻沼の稲荷寿司は、写真のように、1本の長さが15センチほどもあり、江戸時代の長い稲荷寿司の姿を今に伝える郷土の寿司として知られています。他の地域よりも随分長い稲荷寿司3本と、巻き寿司のセットで売られるのが定番です。
その起源には諸説ありますが、江戸で流行していた稲荷寿司が、舟運でつながっていた妻沼にも伝わり、河岸で働く人々や妻沼聖天山の参拝者のあいだで好評を博して地域に定着したと考えられています。
妻沼地区の稲荷寿司は、地域に根付く伝統的な食文化を評価し、文化庁が認定する「100年フード」に選ばれるなど、地域の誇る味として注目されています。稲荷寿司の歴史を振り返ってみても、その古い様式を残した寿司として価値が高いといえましょう。
江戸時代から、初午の日に限らず、庶民のお寿司として愛されてきた稲荷寿司。近年、2月11日が「初午いなりの日」と銘打って記念日に登録され、初午の行事食としてもPRされています。今年の初午には、ご自身の地域の稲荷寿司を味わってみてはいかがでしょうか。
<妻沼の稲荷寿司>
清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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