4月になり、季節は春爛漫ですね。
最近は近所をお散歩するだけでも、綺麗な花々がいっぱいで、ほっと癒されています。
そんな春にふさわしい行事が「花祭り」です。4月8日は仏教の開祖であるお釈迦さまが生まれた日とされ、各地の寺院などでお釈迦さまの誕生を祝って花祭りが行われます。古くは「灌仏会(かんぶつえ)」や「仏生会(ぶっしょうえ)」などの名前で、広く行われた行事でした。
花祭りに欠かせないのは、美しい季節の花々で飾られた花御堂。
その中には、お釈迦さまが誕生したときの姿をかたどった「誕生仏」が安置されています。お釈迦さまが生まれたとき、右手は天を、左手は大地を指差し、「天上天下唯我独尊」と唱えたという伝説に由来し、幼い童子の姿をしているのです。
参拝者は誕生仏に甘茶をそそぎかけてお祝いします。
この不思議な儀式は、お釈迦さまが誕生したときに、9匹の龍があらわれて、その口から清らかな産湯が湧き出したという故事に由来するもの。
甘茶とは、ガクアジサイの変種であるアマチャを原料にした飲み物で、若葉を日干しして乾燥させ、さらに発酵させてから再度乾燥を経て作られます。それを煎じると、写真の通り紅茶のような見た目の飲料になるのです。
灌仏会の歴史は古く、奈良時代の八世紀半ばには寺院で灌仏会が行われていた記録が残っています。「花祭り」の名が使われるようになったのは、明治以降のようです。
江戸時代後期には、お寺に参拝して甘茶をもらって帰る風習が全国的に行われており、竹製の手桶を持った子どもたちが『江戸年中行事図絵』(1893年)にも描かれています。
家に持ち帰った甘茶は、それを飲むと身体が丈夫になると信じられていました。
また、甘茶で墨をすって字を書けば書道が上達し、その墨で「千早振る卯月八日は吉日よ、神さけ虫を成敗ぞする」と書いて、お手洗いや玄関に逆さにして貼れば虫よけになるなど、いろいろな効能があると信じられていたのです。
花祭りには、甘茶とともにヨモギをつきこんだ草団子や草餅がお供えされました。春に伸びたヨモギの若葉は強い芳香で、香り高い草団子になったはず。
明治時代に記された『江戸府内絵本風俗往来』には、江戸ではちぎった草団子に餡をのせた「いただき」という菓子を仏前に供えたと記されています。いただきは雛祭りにも作られた菓子ですが、春の行事にはぴったりのお菓子だったのでしょうね。
清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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