いよいよ、明日は立春を目前に控えた節分です。
節分とは、四季の移り変わりの節目のことをいい、かつては立春だけでなく、立夏、立秋、立冬の前日のことも節分といいました。
しかし、いつからか立春の前日だけを指すように。厳しい冬から、暖かい春へ、誰もが心待ちにしていたからでしょうか。また、立春正月であった旧暦では、年越しのタイミングでもあることから、特に大切にされたとも考えられます。暦では雑節の一つにも数えられています。
節分は他の節供などと同じく、季節の変わり目にあたります。豆まきなど、古くから邪気払いの風習が根付いてきました。こうした行事は、いつごろから続いているものなのでしょうか。

節分の豆まき行事は、古くは「追儺(ついな)」または「鬼やらい」という行事に由来するとされています。そもそもは中国で行われていた「大儺(たいだ・たいな)」の風習を取り入れたものと考えられ、日本では、飛鳥時代の706年には行われていたようです。
追儺とは、大晦日の夜に行われた疫病や鬼を追い払う儀式でした。現代の豆まきでも、鬼の面を被った人物に豆を打ちますが、こうした名残を感じます。一方で、貴族社会では節分に無病息災などを願って読経が行われることもありました。

それらの風習が合わさり、室町時代から江戸時代にかけて、節分の行事が庶民にまで広まっていきました。
江戸時代の節分の様子が『東都歳事記』(1838)に記されており、そこには、身分の高いものも低いものも、炒り豆を打ち、ヒイラギと鰯の頭を戸外に刺すとあります。これはヒイラギの棘とイワシの臭いの強さで鬼を追い払う魔除けのようなもの。今でも同じ風習が伝わっていますね。
そして、豆をまくのは年男で、炒り豆を年の数より一つ多く食べる風習も登場します。年取りの意味を込めて、年齢より一つ多く豆を食べたのでしょう。現在とあまり変わらない節分の様子が目に浮かぶようです。

明治時代に記された『東京年中行事』(1911)には、節分には神社仏閣に役者や力士を呼んで、大々的に豆まきをする様子が登場します。今でも歌舞伎役者や俳優がショーのごとく豆まきを行う催しがニュースを賑わせますが、幕末から明治には始まっていたようです。さらに近代以降は幼稚園や学校などの教育現場でも節分の豆まき行事が取り入れられ、誰もが知る年中行事となっていきました。
そもそも、豆を鬼退治に用いる理由ははっきりしていませんが、五穀の一つに数えられる大豆は日本人にとって大切な穀物でした。「豆」は「魔を滅する」という語呂合わせから来ているという説もあります。

節分に食べる行事食として有名なのが太巻き寿司です。「恵方巻」の名前で知られ、節分の夜にその年の恵方(吉方位)を向きながら無言で一本の巻き寿司を丸ごと食べれば幸運に恵まれるといいます。
この風習は比較的新しく生まれたもので、昭和7年に「幸運巻寿司」と銘打って、節分に巻き寿司を食べるよう宣伝したチラシが残っており、その頃には大阪で見られた風習のようですが、全国に広まったのはもっと後のこと。
昭和の終わりには大阪の庶民にまで広まり、平成に入ってからはコンビニエンスストアで販売されるようになり、商業的なキャンペーンによって全国に広まりました。
恵方巻には「七福神」にちなんで7種類の具材を入れるとか、無病息災や幸福を願うなど、いろいろなご利益や意味を込めて販売されているようです。

また、節分の食べものは地域によりさまざま。
山口県では、「節分には大きなものを食べて邪気を祓う」と考えられており、クジラが欠かせません。竜田揚げやおばいけ(さらしクジラ)、刺身など、クジラ料理が食卓に並びます。山口県には古式捕鯨の拠点があったため、鯨食に親しんできたという背景もあるのでしょう。
また、栃木県では福茶を飲んで、冬至ゆずの味噌漬けを食べる地域も。イワシの塩焼きを食べる風習も各地に伝わっています。そのほかに、けんちん汁、蕎麦、こんにゃくなども見られます。こうして考えてみると、他の年中行事に比べて、全国的に共通する行事食がなかったため、近年恵方巻がここまで定着したのかもしれません。
節分は、季節の変わり目に家族や地域が一体となって邪気を払い、幸福を願う行事ともいえます。現代では簡略化された形で行われることも多いですが、節分の本来の意味を理解しながら楽しむことで、行事の価値をより深く感じることができるのではないでしょうか。

清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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