こんにちは。俳人の森乃おとです。
12月に入り、街にはクリスマスソングが流れ、街路樹がイルミネーションに彩られる季節となりました。イエス・キリストの誕生日を祝うクリスマスに最も関係が深い木とされているのは、棘のある緑の葉と赤い実の調和が美しい、セイヨウヒイラギ(西洋柊)です。クリスマス・ホーリー、あるいは単に「ホーリー」とも呼ばれます。
英名は「Holly(ホーリー)=聖なる木」
セイヨウヒイラギはモチノキ科モチノキ属の常緑小高木です。ヨーロッパ西部、南部、アフリカ北西部、アジア南西部などが原産地で、学名はIlex aquifolium(イレックス・アキフォリウム)。種小名の「aquifolium」は、ラテン語で「棘のある葉」。英名の「Holly(ホーリー)」は「聖なる木」を意味します。
樹高は5~15m。葉は楕円形で、長さ12㎝、幅2~6㎝。花期は4~5月で、白い小さな4弁花の集まりを葉の腋(わき)につけます。果期は10月~翌年2月で、直径6~10mmの果実が赤く色づきます。
キリストが十字架にかけられたときに額に巻かれた「荊(いばら)の冠」はこの木の枝で、赤い実はキリストの足元に滴った血を表すと考えられました。また花の白さはキリストの生誕を表すともいわれています。
ヒイラギ(モクセイ科モクセイ属)とは別科別属の植物で、近縁関係はありません。和名に「ヒイラギ」がついたのは、縁にギザギザの棘(鋸歯=きょし)がある葉の形がよく似ているためです。ヒイラギは、「疼(ひひら)ぐ=ヒリヒリする」という古語に由来します。
セイヨウヒイラギは「死と再生のシンボル」
セイヨウヒイラギは生長が遅く、棘のある葉がびっしり繁るので、害をなすよからぬものの侵入を防止する生垣に最適です。材質は白く堅牢で、チェスの白駒などの材料になります。ちなみに、黒駒には黒檀(コクタン)が使われるそうです。
日本と台湾に自生するヒイラギも常緑小高木で、やはり生垣に植えられます。平安時代にはヒイラギの枝にイワシ(鰯)の頭を突き刺して「柊鰯(ひいらぎいわし)」を作り、門口に掲げる風習がありました。ヒイラギの棘で悪鬼の目を突き刺し、イワシの臭いで撃退する節分の行事です。
一方、キリスト降誕より数百年以上前、中部ヨーロッパを中心に文化を発展させたケルト人たちは、セイヨウヒイラギを魔除けの「死と再生のシンボル」として崇拝していました。
古代ゲルマン人の冬至祭の歌では、セイヨウヒイラギは「最も王らしい木」とされ、「セイヨウヒイラギに冠が与えられる」とも歌われています。
セイヨウヒイラギとヒイラギの違い
セイヨウヒイラギとヒイラギは、別種とはいえ葉に鋭い棘を備えることから、東西で同じように「魔を払う」として神聖視されてきたことは、とても興味深く思えます。
この2種類の木の見分け方ですが、大きな違いは花の咲く時期。セイヨウヒイラギは冬ですが、ヒイラギは夏。実の色と果期も異なり、セイヨウヒイラギは鮮やかな赤で、冬に色付きます。ヒイラギは夏で、青紫色から暗紫色です。
しかし、葉だけを比べると、なかなか区別は難しいかも知れません。注目ポイントは葉のつき方。セイヨウヒイラギは、左右互い違いに枝につく、互生です。ヒイラギは左右が対になってつく対生です。また、セイヨウヒイラギは、棘が互い違いに上向きと下向きになるので、光沢のある葉の表面が少し波立っているような印象を受けます。
花言葉は「神を信じます」「家族の幸せ」「予見」
セイヨウヒイラギはクリスマス・キャロル(クリスマスの時に歌う讃美歌)にも歌われ、『ひいらぎ飾ろう』(Deck the Halls/デック・ザ・ホールズ)はよく知られています。
ウェールズ民謡のキャロル『Nos Galan』が起源のこの歌は、「ファララララー ララーラーラ♪」の繰り返しが印象的ですね。
古いキャロルでは、「クリスマスの季節は/花嫁のようにやってくる/ヒイラギとツタをまとって」と歌われたように、かつては同じく常緑のツタも添えてクリスマスを祝いました。
花言葉の「神を信じます」「家族の幸せ」はまさに敬虔な思いと喜びから生まれたもの。
「予見」は、セイヨウヒイラギの実の付き方によって冬の寒暖を予測していたことに由来します。実が多く付くのは、厳しい冬が続くサインです。
クリスマスが過ぎると、もうすぐに新しい年がやってきます。厳しくも清い季節を迎え、改めて愛するものの幸せと喜びのために祈りを捧げたいと思います。
セイヨウヒイラギ(西洋柊)
学名 Ilex aquifolium
英名 Christmas holly, Holly
モチノキ科モチノキ属の常緑小高木。ヨーロッパなど原産。樹高5~15m。葉は互生し、縁に鋭い棘(鋸歯)を持つ。花期は4~5月。葉腋に4弁の白い小花を密生。果実は10月~翌年2月にかけて赤く色づく。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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