雑節の八十八夜はなぜ夜なのか
〽︎夏も近づく八十八夜
茶摘みの光景を見たことがなくても、歌詞を覚えている人が多いこの歌は明治45(1912)年に小学校の唱歌となって長く人気を博している「茶摘み」です。
〽︎野にも山にも若葉が茂る
春も終わりに近づき、山の木々はすでにすっかり新緑で覆われ、さわさわと風に揺れています。お茶の木の葉も同様で、この時期にやわらかい新芽を出します。
一番茶は中心の新芽とその下の2枚の若葉、「一芯二葉」を摘んだもので、八十八夜に摘まれたお茶を飲むと病気にならないといわれてきました。若葉の精気がたっぷり含まれた生命力のあるお茶です。
地域にもよりますが、現在の一番茶の茶摘みの最盛期は4月中旬〜5月上旬頃。一番茶はまだあまり紫外線にあたっていないフレッシュな葉だけで作られるので、渋味や苦味の元となるカテキンが少なく、繊細で甘みのあるお茶になります。玉露や煎茶などの高級品もこの一番茶で作られています。
その50〜60日後の6月頃に「一芯三葉」を摘む二番茶、そして7月〜8月以降に三番茶を摘みますが、お茶の葉は摘む時期が遅くなるほどカテキンが豊富に含まれ、収量もふえていきます。「番茶」は成長して固くなった茶葉で作ったお茶のことで、甘みはありませんが、さっぱりとして日常的に飲めるお茶になります。私も食後は必ず緑茶をいただきます。
今年の八十八夜は5月1日(平年は5月2日)。立夏は5月5日ですので、まさに立夏の直前です。「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の毒霜」ともいわれるように、4月までは日中、暑いほど気温が上がっても夜には急激に下がることもあり、昼と夜の寒暖差が大きく、遅霜による被害を受けることがあります。
なかでもお茶の葉は影響を受けやすく、新芽が凍傷を起こすと茶色く変色し、品質が大きく低下してしまうため、霜は大敵でした。しかし、その天候も5月に入るとようやく安定し、種まきや茶摘みの最盛期を迎えることから、八十八夜は縁起のいい季節の節目として重要視されてきました。
またお茶だけでなく、末広がりの八が重なり、米の字を分解すると八十八になることから、豊作をもたらす農の吉日として認識されるようになりました。
八十八夜は日本独自の雑節で、二百十日などと同様に八十八という数字は立春から数えた日数のことですが、なぜ八十八夜だけ夜がつくのかというと、やはり夜に降りる霜と関係があると考えられています。
八十八夜が明ければ、夜もあたたかくなり、安心して農作業ができるようになります。日本の春の寒さは本当に最後の最後まで、富士山の裾野のように長く長〜く尾を引くのが特徴です。寒さとのお別れ。それはもう夏の始まりなのです。
「八十八夜」は古い言い伝えからできた暦日で、16世紀の伊勢暦に記載されるようになりましたが、その数十年後、渋川春海が公式の暦として発布した貞享暦に採用して以降、正式な雑節となった日本特有の暦日です。
いよいよ新緑の季節。これからは青葉、若葉がなによりの目のご馳走です。風薫る、若葉風ともいいますが、新茶を待ちつつ、まずはさまざまな新樹の放つ香りを存分に楽しみましょう。
文責・高月美樹

